ITmedia NEWS >

デジタル家電市場を目指すPC機器メーカー、“アウェイ”での勝機は?(1/2 ページ)

» 2004年05月18日 08時31分 公開
[中嶋嘉祐,ITmedia]

 IntelDellHewlett-Packard(HP)――。PC業界の大手が相次いでデジタル家電市場へ参入してきている。市場が成熟し、価格競争も激しいPC市場と異なり、デジタル家電市場は当面は有望。新たな収益の柱を育てたいメーカー間の争いは激しさを増している。

 国内を見渡してみても、アイ・オー・データ機器ナナオバッファローカノープスなど、PC関連機器メーカーと見なされていた企業が、この市場を狙った新製品を次々に発表している。

 PC関連メーカーが狙うデジタル家電市場。液晶テレビにビデオレコーダー、音楽プレーヤーと、これまでPC業界がほとんど手を出していない分野だけに、売上拡大につながる可能性を大いに秘めている。しかし、あくまでここは家電メーカーの“ホーム”。PC関連メーカーは、「新規参入」と報じられる立場にある。――やはり“アウェイ”故の障壁にぶち当たっているようだ。

「PCからも家電を狙えなくてはおかしい」

 「数年前から家電メーカーがPCの分野に近づいてきた。PCからも家電を狙えなくてはおかしい」と家電市場参入に至った経緯を説明するアイ・オー。同社は2年ほど前にデジタルハイビジョン(HDTV)対応のHDDレコーダー「Rec-POT」を投入。このほか電子番組表(EPG)情報をパソコンに取り組んで番組検索・録画するSKY PerfecTV!向けのレシーバーなどもかなり前からリリースしている。

 「アイ・オーは周辺機器メーカー。デジタル家電市場でも周辺機器メーカーであることに変わりはない」と同社マルチメディア事業部マルチメディア担当部長の豊田勝之氏。家電大手が製造・販売規模の大きさ故にフォローできない“隙間”を狙う戦略を同社は採った。デジタル家電市場にはまだ家電メーカーが開拓していない隙間が多数残されており、競合するのではなくその隙間を補完する考えだと同氏。

 アイ・オーは4月からRec-POTシリーズの最新モデル「Rec-POT M」の販売を開始。「家電メーカーは基本的に、レコーダーにチューナーを載せる。当社は家電の周辺機器という位置付けから、テレビに内蔵されることの多いチューナーを載せなかった」(同AVネットワーク3課プロダクトマネジャー・増田憲泰氏)。このほかDVD機能なども外したことで、一通りの機能を備えたHDTV対応の他社製HDDレコーダーが10万円台半ばで売られる中、Rec-POT Mは5万円強(ITmediaショッピング調べ)という割安な価格設定になっている。

 一方、液晶テレビ市場に参入したナナオは、「大衆家電を目指すつもりはない」と話す。PC用ディスプレイでは静止画の利用が中心だったが、昨今では動画利用も増えてきた。今後の液晶ディスプレイ市場の展望を見据え、「動画技術を確立・蓄積するため」の決断だったという。例えば同社の新製品「FORIS.TV」シリーズでは、オーバードライブ回路を自社開発、応答速度を高めて残像を減らすという課題に取り組んでいる(3月1日の記事参照)。

家電市場への参入障壁――アイ・オー

 PCショップへの販売チャネルと家電量販店へのチャネルは別になる。アイ・オーは参入に当たり、まず量販店の店頭に商品を置いてもらうところから始めなくてはならなかった。

 「ユーザーにメリットのある商品でないと置いてもらえない」ことから、同社はRec-POT Mの開発過程で特に量販店の声を重視、必要な機能や売りやすい価格を聞き出した。同社は前モデルRec-POT Sでコンパクトな設計を採用し、占有面積を狭めた。ところが良かれと思ったこの設計、量販店の評判は芳しくなかったという。Rec-POT Mではこの反省を生かし、ビデオデッキやチューナーと並べて置くことを前提とした、薄型で占有面積の広い筐体に変えた。

photo 設置面積をコンパクトに抑えたRec-POT S(上)と薄型設計のRec-POT M(下)

 アイ・オーを知るユーザーからは、例えば250GバイトのHDDを2台搭載した大容量モデル、内蔵HDDの交換に対応したモデルの登場を望む声が多い。同社はこうした声を「今後の課題」として受け止めているが、Rec-POT Mは家電として認知させるため、「シンプルで受け入れやすく、価格も手ごろ」であることを優先した。

 同社は「AVeL LinkPlayer」で得た教訓から「大衆に受け入れられるためのシンプルさ」の重要性を学んだ。LinkPlayerは、市販CD・DVDの再生に加え、DVD-RWに焼いたコンテンツ再生、PCデータをテレビ画面に映す機能など、多彩な機能を備える。

 LinkPlayerの売れ行きは、販売担当の予測を上回る勢いだ。しかし機能が複雑になることから、販売員の理解度にばらつきが生じ、それに応じて販売好調な店とそうでない店の差が大きくなっているという。

 また、「周辺機器」を標榜するだけにメインの家電製品への対応が重要になる。PC周辺機器メーカーとして著名な同社は、PC新製品がリリースされる際には事前にメーカーからの連絡を受け、動作確認を取れる。その一方で、家電市場では新興企業。参入当初は家電メーカーとのパイプがなく、動作確認に苦労したようだ。

photo POPなどにも力を入れたというRec-POT M

 同社は今後の課題に、家電メーカーとしてアイ・オーのブランドを広めることを挙げた。一部量販店のHDDレコーダー売場からは「アイ・オーというブランドになじみが薄く、大手に比べると売りづらい」といった声や、「Rec-POT Mは他社のようにDVDドライブを搭載しておらず、一般ユーザーには勧めにくい」といった意見もあがっている。周辺機器メーカーならではの製品コンセプトの浸透と、家電ブランドとしての認知度向上──という2つの目標を同時に掲げる同社は文字通り“挑戦者”の立場だ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.