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BBTVの「電子レンタルビデオ」戦略――その読み方(1/2 ページ)

» 2004年07月08日 09時51分 公開
[西正,ITmedia]

 BBTV(旧BBケーブルTV)が、ベーシックチャンネルをセットにせず、VOD利用のみを前提とした加入者申し込みを受け付け始めた。サービス名も「電子レンタルビデオ」と分かりやすくしており、これを機に急激に加入者数を拡大していく可能性がある。

「MUST BUY」をやめた効果

 BBTVをはじめとする「有線役務利用放送事業者」各社は加入者数が伸び悩んでおり、今後の展望が開けずにいた。この有線役務利用放送事業者にも2種類あり、IPと放送を切り分けているスカパー系のオプティキャスト、関西電力系のeoT.V.の場合には、地上波放送やBS放送の同時再送信が認められている。

 この両社の場合には、これまでの有線テレビジョン放送法(有テレ法)に基づくケーブルテレビのサービスを高度化させた形になっているが、既存のケーブルテレビ事業者の経営を圧迫させないようにという総務省の方針により、エリア展開などの面で制約を受けており、加入者数を拡大させにくい状況にある。

 もう一方のグループであるソフトバンク系のBBTVや、KDDIによる光プラスTV、ジュピターグループのオンラインティーヴィは、純然たるIP放送であることを理由に、地上波放送やBS放送の同時再送信が認められていない。この3社の場合には、セットで提供される通信サービスのレベルの高さが売り物になるが、地上波放送やBS放送の再送信が認められていない分、既存のケーブルテレビよりも見劣りする感が強かった。

 もっとも、これらの事業者はサービスに当たって高度な回線を使用しており、VOD(ビデオ・オンデマンド)などの新サービスの提供にあたっては、それが大きな強みになると見られていた。特に、7月からは、NHKの過去の映像アーカイブがコンテンツとしてBBTV、KDDI、JCOMの3社のVODサービスに提供されることになり、コンテンツの品ぞろえが大幅にパワーアップした。加入者数の拡大に向けた巻き返しの体制が整ってきたことは確かだ。

 そうした状況の中、BBTVは思い切った新戦略を打ち出した。

 それは、これまでのケーブルテレビのビジネスモデルを成り立たせる上で欠かせないものと考えられてきた“ベーシックチャンネルの販売”を、加入者の要望次第という形に変えたことだ。

 ベーシックチャンネルは20〜30の有料専門チャンネルをパッケージとして売るもので、通常、ケーブルテレビに加入するとセットで付いてくる。俗に「MUST BUY」と言われるように、加入者側からすると、選択の余地のないチャンネル群である。

 ケーブルテレビ事業者にとっては、200近くもある有料専門チャンネルの中から、20〜30チャンネルを選択してパッケージにするわけだから、両者の需給関係はアンバランスになる。つまり、悪い言葉で言えば安く買い叩くことができる。

 その結果、加入者から受け取る料金を仮に3900円とすると、ベーシックチャンネルの購入費のほうは700円前後に抑えられるため、残りの金額が設備利用料として入ってくる。これがCATV局が収益を高める源泉になっていた。

 BBTVの打ち出した新戦略では、このベーシックチャンネル群を「MUST BUY」とせず、VODサービスの利用だけという加入を受け付けることにした。その結果、BBTVに加入する際に必要な金額は、月額基本料金の525円(年内はキャンペーンで無料)だけで済むことになったのである。

 VODの利用料金についても、レンタルビデオ店のレンタル料を参考に設定されたことから、まさに自宅に居ながらにしてレンタルビデオが見られるようになったわけだ。VODという一般加入者になじみにくいネーミングも「電子レンタルビデオ」と分かりやすいものとした。

 VODサービスの場合は、レンタルビデオと異なり、返却が遅れた場合に延滞料金を払うことになる心配もなく、新作が出ても早い者勝ちで借りられなくなってしまうような心配もない。コンテンツの品ぞろえでは、まだ負けているかもしれないが、利便性の面では大いに勝っている。

 だが都市部の顧客からすると、レンタルビデオ店は最寄りの場所にたくさんあるし、ほかにさまざまな娯楽もある。このため、例えVODサービスに関心があっても、(不要な)ベーシックチャンネルを併せて購入してまで、同サービスに加入しようという気にならなかった――これがVODサービス伸び悩みの一因だったことは明らかだろう。

 BBTVの場合、この「MUST BUY」をやめたことで、VODサービスだけを楽しみたいと思う人を取り込みやすくなった。当然、加入者数を大幅に伸ばせる可能性が出てきたわけだ。この戦略がうまくいくかどうかは、他の事業者の戦略にも影響を及ぼすだけに、その成否には大いに関心が持たれるところだ。

エリア展開が自在になるメリット

 VODサービスだけを利用する加入者を受け付けることにしたことのメリットはほかにもある。それは、「純然たる通信サービス」になったため、ベーシックチャンネルをセットにしていた時と異なり、放送サービスの提供に伴うエリア展開での制約がなくなったことになる。

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