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110度CS放送――HD化の意味を取り違えていないだろうか?(2/2 ページ)

» 2004年07月22日 14時39分 公開
[西正,ITmedia]
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 現時点で地上波やBSと見比べられる云々の問題ではなく、いずれはCSでも放送する作品自体がHD化されたものばかりになるのである。その段階になってHD用の帯域を確保しようとしても、既に帯域を使っている事業者をどかすわけにはいかない。そうした趣旨もあって、今年になってから総務省が、再度免許の再調整をしたわけである。

 例えば、「TBSチャンネル」や「フジテレビ721」のようなドラマの再放送チャンネルの場合、ファーストランから2年経つと、TBSやフジテレビに再放送権がなくなることから、TBSチャンネルやフジテレビ721で放送されることになる。

 4年くらい前から、新たに撮っている作品は全部、HDになっているわけだから、110度CSのチャンネルの方が相応の帯域を用意していないと、その時にはダウンコンバートして放送しなければならなくなってしまう。HDの番組をダウンコンバートしてSDで放送するのにコストをかけるのは、あまりにも無駄な話である。つまり、事業者が懸念するコンテンツについての考え方は、そういう文脈で考えるべきであって、いきなりHDの番組をズラリとそろえる必要などないのである。

 今の地上波デジタルやBSデジタルですらそうであるように、当面はHDとSDの混在になるのはやむを得ないし、過去に撮った作品の大半はHD化することなどできないことは明らかだ。

 せっかくの新型デジタルテレビを用意したのに、SDの番組を流すと両側に黒い部分が出てしまって見辛いという声も耳にする。だが、それならば見ないのかというと、そういう極端なことにもなっていない。

 このような極端な話を声高にする人たちが少なからずいるせいか、110度CS放送のHD化が急務だと言うと、今すぐにでも全番組をHD化しなければならないように勘違いされてしまいがちだ。しかし、実際は、まず帯域だけでも確保しておこうという話に過ぎなかったことを、関係者は再確認されるべきだろう。

 フィルムで撮ったもの、ないしフィルムが残っているものはHD化が可能だというような話も耳にする。しかし、例えば小津安二郎監督の作品をデジタルハイビジョンにすべきだという映画ファンなどいないのではないだろうか。過去の作品は、過去の枠組みで作られているところに良さを見出せるのであって、可能だからと言って変に細工してしまったら、作品の良さまで消してしまうことになりかねない。

 110度CS放送のHD化という課題は、あくまでもまずは帯域の問題として論じられるべきである。HD化と言った途端、コンテンツの何から何までHD化しなければならないと考えてしまうような「錯覚」は、論点をぼかすだけに過ぎないのではなかろうか。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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