アセロス・コミュニケーションズは、「WIRELESS JAPAN 2004」の展示会場でちょっと変わった無線LAN製品のデモンストレーションを行っている。4本のアンテナを使い、HDTVクラスのMPEG動画をストレスなく伝送できる“次世代テレビ向け”の無線LAN製品だ。
今回のデモンストレーションは、7月21日に発表したIEEE 802.11a/b/g対応の無線LANチップセット「AR5005VA」を使用したもの。AR5005VAは、動画などのエンコード/デコードを担当するマルチメディアチップセットとのダイレクトインタフェースを搭載したほか、映像や音声といった連続性が求められるパケットを優先的に伝送するWME(Wireless Media Extensions)対応によりQoSを実現。2005年第1四半期に登場する見込みのIEEEE 802.11eのドラフト仕様もカバーしている。
デモンストレーションでは、展示台の下にあるDVDプレーヤーの映像をリアルタイムにMPEG-2 TS(Transport Stream)へ変換し、AR5005VAで伝送していた。映像のビットレートは8Mbps前後だが、HDTV(19〜24Mbps)の伝送も想定している。
評価用ボードにはMIPSチップを統合し、DLNA(Digital Living Network Alliance)が指定したDRM(デジタル著作権管理)技術やMPEGカプセル化をサポート。さらに、赤外線モジュレータとリピータ機能により、赤外線リモコン信号を無線LANを介して伝送できるという。ユーザーは、ワイヤレス機能付きのTVの前でリモコンを使うだけで、離れた場所にあるDVDプレーヤーやSTB(セットトップボックス)などのソースデバイスを操作できる。
複数のアンテナを使う家電向けの無線LAN技術といえば、米airgo Networksの「AirGo」で採用されたMIMO(Multiple Input Multiple Output)が思い浮かぶ。しかしアセロスによると「MIMOもサポートできるが、今回は違う」という。
4本のアンテナは、“送信ビームフォーミング機能”と“受信合成ダイバーシティ機能”を実現するためのものだ。送信ビームフォーミングとは、送信時にアンテナの方向を信号処理でコントロールし、ビームを効率的に利用する技術。一方の受信合成ダイバーシティ機能は、複数のアンテナで受信した信号を合成し、電波の受信レベルが変動するフェージング現象を防ぐという。これらの技術の組み合わせにより、「有効信号が最大で10倍の約10dBまで増加する」(同社)。
「送信ビームフォーミングにより約5-7dBの増幅が得られる。一方、受信合成は約3-5dB増幅の効果がある」(同社リリースより)。これにより、通信距離がどの程度延長できるかといったデータは今のところ非公開だが、アセロスでは、「イメージとしては、10mWで送信していた無線LANが100mWに置き換わったようなもの」と話していた。
もう一つのメリットは、これらの機能が従来の無線LAN製品と完全互換性を確保しているということ。つまり、「たとえば、相手が通常の無線LAN製品であっても伝送距離は延びる。追加するだけで無線LANのカバー範囲を拡大できるのは、コンシューマー製品にとって大きなメリットだ」(同社)。
テレビやビデオを無線化するCE製品向けの無線LANチップは、ノートPCに続く大きな市場を形成するとみられている(関連記事)。前述の「AirGo」のほか、米Magis Networksの「Air5」など新しい無線技術も続々と登場しているなか、本命と言われるIEEE 802.11e+IEEE 802.11a/gに“もう一工夫”加えたのがアセロスのアプローチだ。なお、同社では年内には「AR5005VA」の出荷を開始するとしている。
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