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「VSA-AX10Ai」の音色は“制作者の意図”を再現した?レビュー(2/3 ページ)

» 2004年07月23日 16時09分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 ヤマハ「DSP-Z9」を試用した時には、自動音場補正という機能に今ひとつ納得できない面も残ったことを記事にした。マルチチャンネルで多数のスピーカーが中心に向き合う中、位相ズレを起こしてしまう急峻なイコライザで周波数補正を行うことが、正しいのかどうか? そうした疑問を感じさせる試聴結果だったためである。

 この点は試聴前から気になっていため、かなり気を付けて「MCACC」の結果を検証してみたが、Z9で行った「YPAO」による補正時のような違和感を感じることはなかった。ただし、何度か補正を行ってみたものの、たまたまそうした結果が出たのか、それとも位相ズレに対する問題が起きないように設計されている結果なのかまでは分からない。

 ただし、小野寺氏のインタビュー記事にも掲載したように、本機の初代モデルであるAX10の設計段階から、位相問題の発生を抑えるための手法を研究していたそうだ。完全に周波数をフラットにするのではなく、周波数特性のカーブを大まかに“ならす”程度に留め、補正帯域の幅も広めに取るというパイオニアの方針が、うまく意図した方向ではまったと考えるのが妥当かも知れない。

 特性の補正は全スピーカーをフラットにするほか、フロントスピーカーに似た特性に他のスピーカーを補正することも可能だが、全スピーカーに補正をかけた場合でも、フロントスピーカーの雰囲気、味のようなものは失われない。個性はそのまま活かしながら、整えるというイメージである。

 さて、AX10AiのMCACCは、他モデルに搭載されているものとは異なり、頭に“Advanced”という単語がつく。では、何がAdvancedなのか?

 パイオニアの研究によると、人間は音程を直接音から聞き取り、間接音からはほとんど影響されないという。つまり、壁からの反射や部屋の残響といった音の成分の周波数特性を計測し、フラットに補正してもあまり意味がないことになる。周波数特性を正しく補正するためには、スピーカーからの直接音を計測、補正する必要があるわけだ。

 Advanced MCACCでは、そのために時間軸方向に多数の計測サンプルを取り、その中から直接音と考えられるものを自動的に選択し、それを元にイコライザの補正値を決定している。

photo Advanced MCACCと従来のスタンダードなMCACCの違い。これまではできなかった直接音の測定と補正が可能になった(パイオニアの資料より)

 この時間軸方向に多数サンプリングする計測は、通常のMCACCでは行わずセットアップメニューのイコライザ設定部で、「Professional」を選んで計測を行う形になっている。ここでは距離補正などの基本的な音場補正は行われないため、あらかじめMCACCで補正を行った後に、この操作を行うことになる。

 結果は良好……と、いいたいところだが、実は筆者の試聴環境では大きな差が現れなかった。残響音が大きく、特定周波数の音が残響で膨らむような部屋であれば、おそらくAdvanced MCACCの効果も高かったのだろうが、筆者の環境は比較的フラットで時間軸で見た時の周波数特性の暴れが少ないためだと思われる。PC用ソフトで計測結果を見ると、どの時間帯でもほぼ同じ特性となっていた。

 しかし、たとえば低域が膨らむ部屋の場合、発音から時間が経過すると間接音が加わって低域が多く計測されてしまう。では計測点が早いタイミングなら良いのか? というと、今度は低域が十分に立ち上がる前に計測してしまう可能性がある(一般に低域は出音が高域よりも遅くなる)。

 ただし、MCACCの処理を挟むためには、音をデジタル化しなければならない。デジタル入力の場合は問題ないが、アナログ入力をそのまま増幅する「ピュアダイレクト」モードでは、MCACCが効かないことになる。一端、AD変換され(2チャンネル時は192kHz、マルチチャンネル時は96kHzの24ビット)、再度、DA変換が挟み込まれる。

 純粋なクオリティの善し悪しでいえば、それほど大きな違いが出るわけではない。しかし、MCACCが挟まるとピュアダイレクト時よりも、ほんのわずか音のフォーカスがぼやける印象を持った。一方で、マルチチャンネルソースなら、音場のまとまりはMCACCオンの方が良く聞こえる。2チャンネルソースとマルチチャンネルソースで、MCACCの動作モードを変えてみるといいかもしれない。

パイオニアの音とは?

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