パイオニアのハイエンドAVアンプ「VSA-AX10Ai」は、実にバランスの取れた製品だ。これまでこの取材シリーズでは、ソニーの「TA-DA9000ES」、ヤマハの「DSP-Z9」と取り上げてきたが、いずれの製品も、“キモ”といえる部分がハッキリしていた。
たとえばTA-DA9000ESは、デジタルアンプの音を良くするためにたくさんの人とお金がかかっているが、DSP音場処理に関して突出した部分はない。複雑なDSP処理をかけると、内部のサンプリングレートも2fs程度にまで落ちてしまうようだ。一方、DSP-Z9のDSPパワーはすばらしく、独特のプレゼンススピーカーも効果的であるが、増幅部のパンチ力にやや欠ける。
VSA-AX10Aiはというと、性格的にはややTA-DA9000ESに近いが、DSPが弱いというわけではなく、むしろかなり強力な部類。しかし、増幅部の質を高めて、DSP処理を行わないストレートデコードで聴かせよう、といった志が感じられる。だからピュアオーディオ的なアプローチのTA-DA9000ESに近い印象を持ったのだが、かといって偏りを感じるほどではない。全体を通したバランス感覚が、VSA-AX10Aiには感じられる。
では全項目平均点+αを狙った製品なのかというとそれも違う。なぜなら、実にマニアックなアプローチで、良い音を求めているからだ。結果、VSA-AX10Aiの音は鮮烈なものに仕上がっている。
今回のレビューは、貸出機手配の都合上、VSA-AX10Aiではなく「VSA-AX10i」をAX10Ai相当にバージョンアップした製品で記事を書いている。と、あらかじめ断っているのは、バージョンアップを行っても、完全に同じ音にはならないからだ。
わが家に届いたAX10Ai相当品は、パンチの効いた力強い音を出す。開放的で明るい音に、思わず笑みがこぼれそうだ。第一印象は非常に良い。例によってさまざまなソースを鳴らしてみたが、ポップス、ジャズ、室内楽、オーケストラなど、あらゆるジャンルで“これはちょっと”といった不得手な分野が見つからない。
しかし、しばらく聞き込んでいくと、中高域から高域にかけてクセが感じられるようになってくる。耳への刺激が強めで、聞き始めは元気よく聞こえるが、長い間聴いていると聴き疲れするかもしれない、という印象だ。こうした高域のクセは、ほかのパイオニア製品にも見受けられる場合がある。
もっとも、機器やケーブルの組み合わせでどうにでも変化するレベルではある。個人的には、高域の刺激がやや強いのが“パイオニアの音”なのだろう、という程度に感じ、率直に商品企画担当の小野寺氏に伝えたのだが、同氏は「アップグレードで機能は全く同じになるのですが、音質は近付くけれど、同じにはなりません。アップグレード版はやや音が固く、AX10iにあった高域にクセが残りますが、本来のAX10Aiではその部分を抑え込んであります」とのこと。
よって、あまり詳細な音質傾向については論評を避けるが、全体的な印象は悪くない。特性的に優れるMOS-FETを用いた増幅部のデキが良いのか、音の立ち上がり、余韻の消え方、S/Nなど、どれを取ってもピュアオーディオ的に美しくまとめられている。その上で、押し出しの強い元気の良さを感じた。大まかな音の作りとしては、Z9のように雰囲気・空間表現を重視するタイプではなく、DA9000ESと同様に解像度や音の方向感、輪郭をクッキリと描くタイプである。
なお、今回は対応するスピーカーを用意していなかったため試すことはできなかったが、本機には7チャンネル分のパワーアンプを5チャンネルとして使い、フロントスピーカーを各2台のアンプで駆動するバイアンプ構成に設定することも可能だ。バイアンプ構成ではウーファーとそれ以外のスピーカーを別のアンプで駆動するため、互いスピーカーが動作する時の動特性に影響されないスピーカー駆動が可能になる。
パイオニアの本社で行われたデモでは、この機能を用いて「Exclusive model 2404」を朗々と鳴らしていたことを報告しておきたい。
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