オンラインゲームではネットワークも商品の一部だが、ゲーム会社にはネットワークの知識が足りない――。IGDA日本リサーチアソシエイトの星野弘宣氏は8月28日、ブロードバンド推進協議会オンラインゲーム専門部会(SIG-OG)の研究会で、オンラインゲーム企業はネットワーク技術に課題を抱えていると指摘した。
オンラインゲームの現場を知る星野氏は「家庭用ゲームソフトメーカーにとって、ネットワークは未知の世界だった。知識がないところから始めたため、まだ追いつけていない」と現状を説明する。
同じくゲーム会社の立場で登壇したガンホー・オンライン・エンターテイメントの堀誠一CTO(最高技術責任者)は、オンラインゲームでラグの発生する原因が「アプリケーション設計部にまだ根深く存在する」ことを課題の一つに挙げた。
ただし、ラグの責任はゲーム会社側にだけあるわけではない。ADSLを利用する場合、ユーザー宅とNTT局舎の距離も遅延の原因になる。また、ISPの通信経路上で故障があったときにも断線や遅延が生じてしまう。しかし「ユーザーはゲーム会社にクレームを寄せることが多い」(星野氏)。
ゲーム会社は自然と「ネットワークをやっていかなくてはいけないのか、コンテンツをやっていかなくてはいけないのか」悩むようになるわけだが、本業である「いいコンテンツを作るのに時間を割いてほしい」というのが星野氏の意見だ。
このため星野氏は「ネットワークに関しては、必要な部分や手に負えないところをキャリアに任せたい」と協業的な考えを打ち出す。それには両者の意思疎通を図ることが重要になってくる。
しかし交流の席を設けても、当初は「それぞれが別の言語を話しているような状況だった」(星野氏)。ゲーム会社はネットワーク技術の専門用語が分からず、キャリアを含めたネットワーク関連会社はゲームコンテンツの中身について理解が足りないからだ。
例えばガンホーの堀CTOによると、オンラインゲームではショートパケットを多用し、パケットロスの可能性を減らしてリアルタイム性を向上させている。しかし、ルータのスペック表記は、データ転送の効率性を考えてロングパケットを使うことを前提にしているケースが多い。「有名な大手ベンダーのルータでは額面通りの性能が出ず、知名度の低いベンダーのルータの方がオンラインゲームの運営には適していた」こともあるという。
コーエーで「信長の野望 Online」を担当する松原健二プロデューサーは、キャリアは自社のサービスをベストエフォートで保証するが、「何ミリ秒でパケットが届くといったサービスレベル合意(SLA)がない。95%の保証という内容でいいから用意してほしい」と訴える。
ブロードバンド・エクスチェンジの小林賢一マネジャー(営業部システムインテグレーショングループ)は、ネットワーク会社がオンラインゲーム業界特有のニーズを把握できていないと認め、情報交換が必要だと強調する。「情報が欠落しているのが原因。どんなネットワークがほしいのか、密に連絡を取り合いたい」。
SIG-OGの研究会は3回目を迎えたが、今回はオンラインゲームの現場が抱える問題点について伝えたいという星野氏などの要請を受けて開催した。
ネットワーク以外にも、タスクを処理するサーバに対してもオンラインゲーム特有のニーズがあると、星野氏やガンホーの堀CTOは話す。「Intelなどのサーバ関連企業の開発者と、まずは開発者同士で非公式に議論したい」(星野氏)。
SIG-OGは、そうした要請にも積極的に取り組む構えだ。司会を務めたSIG-OG部会長の新清士氏は、SIG-OGの下部組織として、オンラインゲーム、ネットワーク、サーバなどの技術者を集め、問題点を議論する機構を設けたいと話している。
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