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麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」 〜秋のプロジェクター編〜劇場がある暮らし――Theater Style(3/4 ページ)

» 2004年10月29日 16時22分 公開
[西坂真人,ITmedia]

松下電器産業「TH-AE700」

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――松下のAEシリーズは、どうでしょうか?

麻倉氏 : 2001年の「TH-AE100」で“カジュアルシアター”を提唱した松下は「ホームシアターを楽しみたいんだけど、そうとう大変なのでは」というユーザーの意識を変え、ホームシアターの垣根を取り払うことに成功しました。シリーズ4代目となる昨年のAE500は、ハリウッドのカラーリスト「デビッド・バーンスタイン」氏によるシネマライクな絵作りで話題になりましたね。

――従来の絵作りとバーンスタイン氏との違いは?

麻倉氏 : これまでのメーカー技術者は、計測的なリファレンスにより絵作りをしていました。一方、映画の世界での絵作りは経験に基づくもので、バーンスタイン氏も自分のアタマのなかに記憶している映画の色調を元に絵作りをしたという点で画期的でした。ホームシアターというのは、最終的には製作者の世界を等身大に楽しむという受身の趣味。私はこれを“アクティブな受身”と称しています。例えばPCは自分で創り出す趣味なのですが、ホームシアターはだれかの世界を自分の中に持ってきて、その世界の中に入り込むというもの。だからバーンスタイン氏のとった方法論は、制作者の世界がそこにあるという点で、実に本質的なアプローチでした。

――今年のAE700もバーンスタイン氏の意見が取り入れられているようですが、その特徴は?

麻倉氏 : ダイナミックレンジが広がったとともに、透明感が増してきたのが印象的ですね。液晶プロジェクターはベールをかぶったような“にごり系”の絵が多いのですが、AE700ではそこが改善されています。AE500との映像の差は、型番でいうと「AE1000」ぐらいの実力が出ていると思います。

 そして絞り/ガンマ/ライトの組み合わせで、黒を沈めて白を立たせるという液晶プロジェクターとしてあっと言うほどの離れ業をやってのけた。AE500登場時にバーンスタイン氏にハリウッドで話を聞いたとき、「色を追求することでいい映画画質はできる。黒は問題にしない」と言っていましたが、たぶんバーンスタイン氏もAE500の黒には満足していなかっでしょう。黒はフィルム画像の最大のベースであり、黒を基調に監督は作品を作っている。撮影監督はまず黒をスタートとして白へと、シーンを構成しています。闇の中でうごめくといった映像も映画には多いですね。AE700は、フィルム的なしっとりした画調を残しながら、コントラスト表現が飛躍的に広がったといえるでしょう。黒が沈んだだけでなく、白側方向もキチンと伸びています。つまり、きめの細かいハリウッド画質は残しつつ、ダイナミックになった印象です。。

 バーンスタイン氏が色調整した「シネマ1モード」は映画視聴用なのですが、実はデジタル放送のハイビジョン映像を見ても非常にいいんです。ハイビジョンは鮮鋭感が強調された“ハッキリ・クッキリ系”の映像が多いのですが、AE700のシネマ1で観るとピーキーさがなくなって不思議に“しっとり系”になります。AE500は爆発的に売れたが、今回の新製品はさらに売れるでしょう。

(松下電器産業「TH-AE700」のレビュー記事はこちらを参照

セイコーエプソン「EMP-TW200H」

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――クラス最高輝度や色再現性の良さが評判のエプソン「EMP-TW200H」は?

麻倉氏 : 昨年のTW200から「H」がついたマイナーチェンジ版がTW200H。このHは「Hi」、つまり明るくしてきたということです。エプソンの戦略は明確で、上位機のTW500は真っ暗な部屋で階調性を楽しむというマニア向けという位置付けで、TW10HやTW200Hはあまり暗くない場所でパワフルに楽しんでもらいたいというコンセプトで、分けています。

――エプソンのプロジェクター戦略とは?

麻倉氏 : エプソンの戦略には「環境を超えてプロジェクターの使用時間を増やそう」という狙いがあります。昼間からテレビ番組も観られるし、もちろん映画も楽しめる。そのコンセプトに一番近いプロジェクターがTW200H。前モデルのTW200は、パワフルで鮮鋭感があり、色のエネルギー感が出ているのが特徴でしたが、200Hは前機種よりもさらに絵の精鋭感が増したという印象です。松下AE700や三洋Z3の場合は、前機種を“ある意味で否定して”新製品を作ってきていますが、エプソンのTW200Hは、TW200の良さをさらに引き出そうというアプローチをしていますね。

――TW200Hの特徴とターゲットユーザーは?

麻倉氏 : AE700やZ3は入門機と言いながら同時にプロジェクターをよく知っているマニア層を意識した製品作りをしています。一方、200Hはファミリー向けとして、気軽に使ってほしいという思いから作られたもの。簡単に楽しめて、しかもシアターの世界に十分浸れるという製品作りをしています。エプソンのプロジェクターの考えの基本は「映画も暗くすることなくテレビのように明るい場所で観られれば楽しいんじゃない?」という発想です。TW200Hはそうしたエプソンの考えに一番近い機種でしょう。プロジェクターを大衆化したいという思いは、松下や三洋と変わらないのですが、その大衆化のアプローチ方法が「よりテレビ的な絵で親しみやすさを出すことで気軽に使ってもらおう」という方向なんですね。

――具体的にはどんなユーザーにお勧め?

麻倉氏 : BSデジタルなどハイビジョン放送を観ている人ですね。映画だけでなく、スポーツなどをみんなで騒ぎながら観たいというユーザーには、TW200Hがイチオシ。エプソンは、プロジェクターのラインアップを揃えている強みがあります。もっと気軽にコストをかけずにプロジェクターを楽しみたいというニーズにはTW10Hがあり、マニアックに映画を追求したいというユーザーにはTW500が用意されています。プロジェクターセットメーカーとしてだけでなく、高温ポリシリコン液晶パネルを供給するデバイスメーカーとして市場を広げていこうという責任感があるのが、実はエプソンの最大の強みでしょう。そういう意味で、大衆に広く受け入れられる製品作りをしているのです。

(セイコーエプソン「EMP-TW200H」のレビュー記事はこちらを参照

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