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音質調整は“職人技”、ソニー「DA7000ES」ができるまでインタビュー(3/4 ページ)

» 2004年11月12日 15時22分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 結論から言えば、「あまりの違いに驚いて同じ製品とは思えなかった」という感想になる。前回視聴時、DA9000ESと音の基本骨格は同じと書いたが、音の質に関しては今ひとつで、たとえばヴォーカルの艶、張りといったものが感じられず、奥に引っ込んだような印象だった。アタックの鋭い音は得意で解像度も高いが、しかし、その質はやはり価格なり。プラスアルファでデジタルアンプらしいクリアさはある、といった程度か。

 もちろん、価格が実質20万円を割ることを考えれば、十分に納得できるものだったが、“驚き”を感じるほどではない。そのまま出ていれば、市場での音質評価はきっと割れただろう(あるいはデジタルアンプはアナログアンプよりも劣るといった議論もわき起こったかもしれない)。

 しかし、チューニング後は別のアンプになっていた。ライバル機(VSA-AX5Aiなど)との比較視聴をしていない段階で、クラス最高といった言い方はできないが、チューニング後は上位機種のDA9000ESを上回る素性の良いアンプへと成長している。

 実は筆者はこの夏、個人的にDA9000ESをAVシステムの核として購入し使っている。が、音の繊細さやウェットな質感の表現力に関しては、本機の方が上回る力を持っている。DA9000ESも、決して細かい質感表現が不得手というわけではないが、ややサッパリした鳴り方に感じる場合もある。DA9000ESでも十分な情報量はあるが、乾いた、スカッとした音となり、ウェットな表現は不得手だ。ところがDA7000ESは、ソースに依存せず、さまざまな音楽の表情が見える。空間表現力が高いのはDA9000ES、DA7000ESとも同じで、収録されている音が混濁せず、しっかりと分離しつつも、スピーカーの方向を感じさせない音場の豊かさがある。

 前回、多少感じたS/N感の悪さ(ノイズが聞こえるといったレベルではなく、出て来る音に対する印象だが)も解消され、音量を上げていっても耳障りな音に変化することはなかった。

 もちろん、電源やシャシー剛性に起因すると思われる、オーケストラヒットなど急峻な音量の増加に対する力強さは上位機種に劣る。繊細さや締める方向でチューンされた低域も、聴く側の好みによっては“線の細さ”と捉える人がいるかもしれない。従って、「クラスを超えた」といったフレーズをここに書くことは止めておく。

 しかし、これほど表現力のあるアンプは、同価格帯ピュアオーディオ用でもなかなかない。ソースの音に何かをプラスして心地よさを引き出すタイプではないが、SACDやアナログディスクなど、元ソースの情報が多い音源を用いれば、その実力に驚くはずだ。特に音量をそこそこに留めておいた時の音が良い。全端子がA/DSD化されたアナログオーディオ入力の質も、ローコスト化で落ちてはいない。

 こう文章にすると「DA9000ESを買ったばかりなのに悔しいんだろう」と思われるかもしれないが、実は全く悔しくない。ある面、DA7000ESが超えていることは確かだが、超えられない部分もあるからだ。

 だが、価格を考えれば素晴らしいの一言である。率直に言えば、ここまで良くなるとは思いもよらなかった。加えて、音質面以外にもいくつか改善されているところを見つけた。羨ましいとすれば、むしろそちらの方かもしれない。

入力チャンネルに対してビデオ端子のアサインが可能に

 本機には2つのHDMI入力端子があり、デジタル映像ソースを2チャンネル分接続し、切り替えることができる。この機能はDA9000ESでもDVI端子で実現されていた(内部的にはシリコンイメージのチップが載っており、単純な信号切り替えではなく、デジタル信号リピータのような構成になっている)。

photo TA-DA7000ESの背面。最下段に2つのHDMI入力端子がある

 ただしデジタル映像入力は、それぞれDVDとTV/SATに固定で割り当てられていた。この2系統は映像コンポーネント系のチャンネル(全3系統)と重なっており、コンポーネント系の入力を3系統全部使っていると、別途、デジタル映像出力を持つデバイスを接続できなかったのだ。

 昨今、コンポーネント出力を持つ映像機器も、デジタル映像出力を持つ映像機器も増加傾向にある。実際、わが家の場合、DVD、デジタルテレビチューナーの2系統でコンポーネント入力が埋まり、1系統のDVI端子がHTPC(ホームシアター用パソコン)で埋まっている。

 やや前振りが長くなったが、DA7000ESはコンポーネントとデジタル、両映像入力端子を別々の入力チャンネルに割り当てるオプション設定が加わっており、入力端子をフルに活用することができる。

 「そんなにたくさん、入力チャンネルは使わないよ」と思うかもしれないが、今は映像信号に関するさまざまな技術、規格が切り替わる谷間の時期だ。映像信号はコンポーネントからHDMIへ、解像度はSDからHDへ、放送方式もアナログからデジタルへ。こうした谷間の時期には、多様な機器を接続するための柔軟性が不可欠だ。

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