ITmedia NEWS >

台所用洗剤が使える食洗機のヒミツ〜三洋電機特集:お父さんのための「食器洗い乾燥機」入門

» 2004年12月29日 07時27分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 食器洗い乾燥機には、酵素入りの“専用洗剤”を使用するのが常識だが、国内メーカーの中でただ一社……三洋電機だけは通常の台所用洗剤を使える製品「DW-SX4000」を販売している。もちろん専用洗剤も使用できる“ハイブリッド仕様”だ。その仕組みを三洋電機コンシューマ企業グループ、ライフソリューションズカンパニー、キッチンビジネスユニット企画部商品企画課の小林正光担当課長に聞いた。

photo 「DW-SX4000」の外観は白

 そもそも、食器洗い乾燥機で台所用洗剤が使えないのは何故か。理由は、台所用洗剤は「泡が立つから」だ。

 「食洗機では、洗浄時に中で水を循環させます。下に溜まった水は、ポンプで再び上に運ぶ仕組みになっていますが、このとき泡があるとセンサーが水と勘違いして誤動作する可能性があるんです。するとポンプはエアーを噛んでしまい、吹き上げなくなる」。

 このほかにも、泡がメカ部分に侵入して故障を引き起こしたり、細かい泡が水漏れの原因になることもあるという。実際、泡の被害は、利用者が考えているよりも深刻なようで、数年前までは台所用洗剤に起因する故障事例も多かったようだ。

 「われわれの事前調査では、台所用洗剤が0.5ミリリットル混ざるだけで、問題が発生する可能性があることも分かりました。しかし、ユーザーは食洗機を初めて購入する方が多く、電気屋さんの店頭で専用洗剤の存在を知るケースがほとんど。また、しつこい汚れなどの場合には、食器を“予洗い”しますが、ここで台所用洗剤を加えてしまう人もいるようです」。

 たしかに、専用洗剤は知っていても、台所用洗剤が混じってはいけないと認識している人は少ないだろう。良かれと思って加えた洗剤が故障の原因になっているわけで、ユーザーも良い気持ちはしない。当然、その気持ちは「要望」や「クレーム」という形でメーカーに帰ってきた。

 「当時は、まだ一部のお店しか専用洗剤を扱っていなかったという事情もありましたし、食洗機そのものに対する認知度も低かった。利便性を向上させて、できるだけ幅広いユーザーの方に使ってもらいたい。それが開発のきっかけです」。

フロート式スイッチと光センサー

 まず、泡による誤動作を防ぐため、ポンプの動作を制御するセンサーに換えて、「フロート式スイッチ」を導入した。水洗トイレのタンクなどに使われるものと同様、水槽に溜まってきた水が“浮き”を持ち上げてスイッチを入れる仕組みだ。ある程度の力が必要になるから、泡でスイッチが入ることはない。

photo 新規に開発されたフロート式スイッチ。もちろん、省スペース&大容量化競争の激しい食洗機だけでに小型化も必須だった

 一方、内部には、泡の発生状況を監視するための光センサーを取り付けた。これにより、泡の発生状態から食器の汚れ具合を検知。その情報を洗浄プログラムにフィードバックしすることで、必要以上の泡が発生することを防ぐという。

photo 本体側面、水の通り道に光センサーを設けた
photo 光センサー

 「『台所洗剤コース』では、5ミリリットルの洗剤を使用しますが、汚れに対して量が多いと判断したときは、いったん泡を捨てて余分な洗剤を除去します。また、通常(専用洗剤使用時)なら水を使わない“排水”時にも、上のノズルから水を出して泡切れを良くしています」。

photo 下部ドアにある洗剤用ポケット。一回に5ミリリットルの台所用洗剤を入れる

 台所洗剤コースの場合、まず高濃度の洗剤水を食器に浴びせかけ、界面活性剤の泡の力で汚れを浮かせる。前述の光センサーで汚れの具合を見ながら洗剤量を調整し、立体的に配置された4つのノズルが噴射する強力な水流で洗いとすすぎを行う。

photo 「台所用洗剤コース」と「専用洗剤コース」それぞれのボタンがある

 ただ、気になるのは、泡切りに水を使うことで、食洗機のウリである“節水&低ランニングコスト”がスポイルされるのではないかという点だ。実際、同社のカタログを見ると、専用洗剤使用時の11リットルに対し、「台所用洗剤コース」は21リットルと、倍近い水を使うことになっている。

 「確かに使用する水の量は増えます。ですが、専用洗剤との値段差や電気代などを勘案するとあまり変わりません。ランニングコストは一回27円ほど(おまかせコース時)。他社と同レベルか、むしろ少ないくらいです」。

 また、台所用洗剤の使用量も大幅に削減できるという。DW-SX4000の「台所用洗剤モード」で使用する洗剤は5ミリリットルが上限。一方、日本電機工業会の資料によると、一般的に手洗いで使う台所用洗剤の量は食器一点あたり平均0.24ミリリットルだ。60個の食器を洗う場合は計14.4ミリリットルとなり、食洗機の3倍の量が必要になる。

台所用洗剤が使える意味

 発売から2年が経過したが、家庭用食器洗い乾燥機(水流噴射式)において、台所用洗剤も使える機種は未だに三洋電機のものだけ。市場拡大のタイミングにも合い、同社は昨年、食器洗い乾燥機の出荷台数を約1.5倍に伸ばしたという。

 さらに現行機種の「DW-SX4000」では、台所用洗剤も使えることをアピールする「泡クレンジング」機能を追加した。泡クレンジングは、高濃度の台所用洗剤を細かい泡にして食器に噴射することで、界面活性剤の持つ浸透作用を有効利用するというもの。「泡にすると、食器に洗剤が付着している時間が長くなるうえ、泡と泡のミクロの隙間に毛細管効果が発生し、汚れに浸透しやすくなります」。

 最近ではコンビニやドラッグストアーでも専用洗剤が手に入るようになり、以前ほど「台所用洗剤が使える」メリットを感じられなくなった。ただし、どちらも使えるのは三洋製品だけの明らかな付加価値だ。省スペース化競争が一段落し、洗浄力や低ランニングコストという付加価値競争に突入した食洗機市場で、“泡”が静かに存在感をアピールしている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.