スカイパーフェクト・コミュニケーションズとシャープは2月17日、60GHz帯のミリ波無線技術を用いる共同受信システムを公開した。実用化されれば、設備の古いマンションや衛星波の届かない北西向きの部屋でも、月々100-200円程度の機器レンタル費用を上乗せするだけで、スカパー!の全チャンネルを視聴できるようになる。2005年度から共同実験を行い、「あまり時間をおかずに実用化したい」(スカパー!の仁藤雅夫常務)。
スカパー!は現在、3つの衛星(東経124/128度CS、110度CS)を使って290チャンネルにおよぶテレビやデジタルラジオを提供している。しかし、既築マンションの場合、その建設時期によって共同受信システム用に敷設した同軸ケーブルが1本しかないため、「たとえば、以前のパーフェクTVしか受信できないというケースもある」(仁藤氏)。スカパー!が設定しているチャンネルパックには124度と128度CSを跨いでチャンネルを設定しているものも多く、結果的に「スカパー!を受信できないという不満があった」(仁藤氏)。
同軸ケーブル1本で使用できる帯域幅は1GHzが上限といわれ、コンバータなしで2衛星ぶんのチャンネルを配置するのは不可能。また、既築マンションの構内同軸ケーブルを増やす“2軸化”は複雑な配線工事を伴い、設備投資も「1000万円程度」と高額なため、あまり現実的な方法とはいえない。スカパー!にとって、既築マンションの古い共同視聴システムが、視聴者拡大における足枷になっている。
シャープが開発した新しい共同受信システムは、パラボラアンテナで受信した放送を各世帯にワイヤレス伝送するというものだ。屋上に送信機を設置し、受信機は各家庭のベランダに取り付ける。送信出力は10ミリワットで、伝送距離は約35メートル。1台の送信機は、10階建てマンションの隣接する2世帯(合計20世帯)をカバーできるという。
無線伝送に使うのは、60GHzを中心周波数とするミリ波だ。その名の通り、波長がミリメートルサイズで、2.5GHzもの帯域幅を利用可能。5GHz無線LAN(18MHz/ch)の140倍にあたる帯域幅を使い、スカパー!のテレビ(1チャンネルあたり4.5MHz)なら290チャンネルをすべて配置できる。さらに、「ミリ単位の波長は、アンテナの小型化にも有利だ。このため受信機は、120×60×40ミリと小型化できた」。
ただし衛星放送は、パラボラアンテナ受信時に電波強度が周波数に対して“右肩下がり”になる特性があり、さらに無線伝送を行うと、放送周波数の高いチャンネルが電波強度不足によって視聴できなくなるという技術的な課題があった。
そこでシャープは、パラボラアンテナで受信した放送波をアップコンバージョンする際に周波数変換を行い、放送信号の並び方を“反転”。受信機から出力するときに再度反転させるという方法で、「全体として十分なレベルのまま、出力時の信号強度を“平坦化”することに成功した」(シャープ技術本部デバイス技術研究所の種谷元隆所長)。
また、受信機の設置角度を90度ずらすことで、2つ同時に使用することも可能だという。「水平偏波と垂直偏波の両方を利用すると伝送容量は倍になる。受信機を2台設置すれば、スカパー!の東経124/128度にくわえ、CS110度、BSデジタル放送、地上デジタル放送の5波を視聴できることになる」(種谷氏)。なお、CS110度は一部チャンネルがHDTV化されているが、「それでも受信機1台で数十チャンネルを伝送できる」。
スカパー!の仁藤氏によると、共同実験は、首都圏のマンション数棟を使って行い、「共聴アンテナメーカーとの間で製品化や価格、事業スキームなどを検証した後、事業化を目指す。実験から、そう遠くない時期に実用化する方針だ」という。
なお、商用サービスを提供する際は、受信機側のコストを利用者が負担することになるが、スカパー!チューナー(STB)と同様のレンタルモデルによって負担を少なくする。「レンタル料金は未定だが、1台あたり100-200円程度を想定している。スカパー!チューナーのレンタル料金は310円のため、月額500円程度(視聴料金は別)でスカパー!を視聴できることになる」(仁藤氏)。
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