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“日本型ウインドウ戦略”は成功するか?西正(2/2 ページ)

» 2005年03月11日 12時24分 公開
[西正,ITmedia]
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 劇場公開中の映画作品を、ブロードバンド配信するということ自体が「口コミ」を呼ぶことは確かだろう。ただ、それだけのことであれば、二匹目のドジョウは期待できない。あくまでも、ブロードバンド配信によって、劇場来場者数も増えるモデルを確立する必要がある。

トレードオフの関係にあるのか!?

 映画作品をブロードバンドで配信すれば、明らかに視聴機会は増加する。しかし、劇場来場者数とブロードバンド視聴者数の関係が、トレードオフになってしまったのでは、ビジネス面で見て新たな展開は期待しにくい。

 今回の試みの結果が楽しみなところだが、おそらくブロードバンド配信によって、劇場への来場数は増加すると思われる。映画を見るために劇場に足を運ぶ人の多くは、何らかの形で予告編を見ているケースが多いという。原作本が売れたからといって、それを映画化すれば、劇場に人が来るというほど単純な話ではない。映像作品が人をひきつけるのは、あくまでも事前に数カットは、映像シーンを見ているからだという。

 そう言われて、改めて映画を紹介・宣伝しているものを見てみると、活字情報だけで構成されているものはない。写真一枚であっても、必ず何らかの映像・画像は載せられているはずである。

 そうであれば、映画がブロードバンド配信されていても、映画館への来場者数とは必ずしもトレードオフにはならないと考えられる。最初から最後までパソコンの前で映画を見ている人はもちろんいるだろうが、より多くの人たちはサワリの部分か、ハイライトシーンを見たところで、次は映画館で見てみようと思うに違いない。

 そもそも、「口コミ」の輪を広げていくためには、視聴者数を増やさないことには始まらない。その視聴者は映画館で見た人だけとは限らないだろうということなら、ブロードバンド配信はトレードオフどころか、映画館への来場者を増やすという相乗効果を発揮する可能性は高い。単純にVOD事業を行うのとは別の切り口から、「映画とネットの融合」効果が生まれる可能性がある。

 もちろん、作品の内容が良くなければ、ヒットすることは難しい。それは当たり前のことだ。作品の内容が良いにもかかわらず、埋もれていってしまうものを減らし、より多くの人の注目を集めるようにするのが、配給事業者の腕の見せ所である。

 すべての映像コンテンツに応用可能な手法であるかどうかは分からないが、少なくとも、これまでの映画作品のウインドウ展開の常識には反するやり方であるだけに、単館からヒット作を生み出すための、日本型ウインドウ展開手法の一つとなることが期待される。

 同社ではブロードバンドインターネット・ユーザーの増加によって、自宅のテレビ、パソコンで劇場公開映画を鑑賞できるようになることで、webによる告知効果が劇場来場者数やDVD販売の増加にもつながる相乗効果を期待している。

 第一作目の「故郷の香り」は着実に成果を見せているようだ。さらに今年の夏には、同じ手法を用いる第二作目が封切られるという。

 日本においても、最大の買い手である地上波の元に届けられる前に、できるだけ多くのウインドウが存在し得るに越したことはない。日本型ウインドウ展開の新たな姿は、ブロードバンド普及で米国を上回った状況の中から見出すことになるのかもしれない。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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