このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米ハーバード大学と香港大学、米シカゴ大学に所属する研究者らが発表した論文「A Few Bad Apples? Academic Dishonesty, Political Selection, and Institutional Performance in China」は、中国で学生時代に論文の盗作(剽窃)をした人は、その後どんな社会人になるのかを調査した研究報告だ。
研究チームは中国の大学院生が書いた50万件以上の修士・博士論文を、盗作検出ソフトにかけて分析した。中国では学位取得に論文提出が必須であり、その論文は公開データベースに収録される。このデータを使えば、卒業前の不正行為とその後のキャリアを結び付けて追跡できる。
まず、どれくらい論文の盗作があったのか。結果、平均盗作率は7.68%であった。次に公務員になる人と論文盗作の関係も調べた。結果、公務員の19%が学位論文で深刻な盗用をしていた。これは民間企業に就職した人より高い割合になる。さらに、盗用をした公務員は、していない公務員より10〜15%速く昇進していた。
では、こうした人々が権力を持つとどうなるのか。研究チームは裁判官に注目した。中国では訴訟がどの裁判官に割り当てられるかはほぼランダムに決まる。この仕組みを利用して、盗作歴のある裁判官とない裁判官で判決に違いが出るかを1億4千万件以上の裁判記録から調べた。
結果は、盗作歴のある裁判官が担当すると、盗用していない裁判官が扱ったものと比較して、有力なコネクションを持つ訴訟当事者にとって有利な判決をもたらし、手続き上の不正がより高い割合で見られ、控訴される割合も高かった。しかし、これらの効果は裁判が一般に向けてライブ配信される場合には消失した。
悪影響は本人だけにとどまらず、盗作歴のある先輩裁判官に指導された新人は、影響されて同じような偏った判決を出すようになった。また、盗作歴のある弁護士は、盗作歴のある裁判官の法廷で特に勝ちやすかった。
最後に、大学が盗作対策を強化した効果も調べた。2010年代に中国の多くの大学が盗作検出ソフトを導入したが、これにより盗作率は約12%下がった。一方、「不正をする人が公務員になりやすい」という傾向は変わらなかった。厳しいチェックを受けた世代の裁判官は、後年の仕事で偏った判決がやや少なかった。
Source and Image Credits: John Zhuang Liu, Wenwei Peng, Shaoda Wang. A Few Bad Apples? Academic Dishonesty, Political Selection, and Institutional Performance in China
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