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写真と日本人(3/3 ページ)

» 2005年03月22日 12時39分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 iPod Photoへの写真転送は、iTunesを使って行なう。指定したフォルダとシンクロするのである。つまりこれは音楽の転送と全く同じ手段であることを意味する。さらにiTunesでは、転送時にサムネイル用、フル表示用、ビデオ出力用の各ファイルを生成する。オリジナルのフル解像度のファイルを転送するかどうかはあくまでもオプションで、必ずしも必要としていない。

写真の転送には、同期するフォルダを指定する

 いくつかの音楽プレーヤーでも写真を表示できるものがあるが、これらは転送したい写真を、デバイス側の指定フォルダに自分でコピーする必要がある。また本体での表示には、オリジナル解像度のファイルからその都度縮小して表示するため、レスポンスの面で不利になる。

 つまりiPod Photoが持っているのは、オリジナルファイルを保存でき、データ的に利用することを前提としたフォトストレージ的な発想ではなく、あきらかに素早くデジタル写真を人に見せるための機能なのである。単に自分が見るだけなら、レスポンスが遅かろうが関係ない。他人の目を意識するからこそ、快適なブラウジング機能とレスポンスが重要なのである。

 こういった発想は、Appleがやらなくてもいずれ日本で生まれただろうか。筆者は、生まれなかったろうと思う。

撮る文化と見せる文化

 別の言い方をするならば、他人に見せるために写真を転送するという現時点でのiPod Photoのあり方は、多くの日本人には必要のない機能なのである。

 しかし今月末に発売される「iPod Camera Connector」と新ファームウェアでは、iPod Photoとデジカメを直接接続して、写真の転送ができる機能が実現する。この機能は、どうせならデジカメ直で取り込めたら便利じゃん、という程度の変化ではない。言うなればこれはiPod Photoをフォトストレージ化するものであり、多くの日本人にもようやく使う意義のある機能となったことを意味する。

 そしてこの機能によって、好む好まざるに関係なく、日本人に写真を持ち歩くという習慣が根付くかもしれない。そのときわれわれは、家族の写真を他人に見せるだろうか。

 動画、音楽、写真という3つのメディアは、DLNAのようなAVネットワークにも組み込まれている。またDVDのオーサリングツールの多くも、写真をスライドショーにする機能が組み込まれている。しかしこれらの機能は、どちらかといえば海外の製品から持ち込まれた機能だ。

 他人に家族の写真を見せる、あるいは見られるという行為に、日本人特有の「照れ」がなくなったとき、写真を見るという機能や仕掛けに対しての本格的なリクエストが始まるのだろう。そしてそこにまた、新たな市場が生まれることになる。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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