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ソニーは復活するか麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/4 ページ)

» 2005年03月31日 14時05分 公開
[西坂真人,ITmedia]

麻倉氏: この件に関して、対照的なのがSamsungの急成長です。Samsungは絶対ビジョナリーなことは叫ばない会社だと私は2000年から、見ていました。「ネットワーク」も「プラットフォーム」も「ソフトとハードの融合」などもいわない。叫ぶのはただひとこと。「世界一になれ!」でした。

 それは性能、デザイン、ものづくりで世界一になれという指令であり、その路線で5年やってきたら、今日のソニーも液晶で頼りにしなければならないほどの強大なSamsungになってしまったのです。ネットワークとかプラットフォームを叫ぶのものいいですが、それは単なるインフラであり、そこから付加価値を生むのは、まさに製品の力ということを忘れてはならないでしょう。

――近年は、ソニーの技術力低下を訴える声も多いですよね。

麻倉氏: 私は「1995年を境にソニーの技術力は“相対的に”低下し始めた」と判断しています。その直前の“画期的商品”プレイステーションまでは、ソニーが独自技術によって強力な規格をつくり、市場を支配してきました。ですが1995年のDVDフォーマット戦争で他社勢力(東芝/松下)に負けたことで流れが変わってきました。他社に大きな勇気と自信を与えたという意味で、この時のソニーの敗北がターニングポイントだったように思います。

 その後のソニーの技術開発は、次世代ディスプレイとして期待されていたPALC(Plasma Address Liquid Crystal:プラズマアドレス液晶)の開発中止、プラズマ/液晶など薄型テレビやDVDレコーダーへの乗り遅れ、いまだに姿をあらわさない(テレビ向け)有機ELディスプレイなど……問題の連続です。

 私が今でも残念に思っているのが、HDDレコーダーのコクーンです。なぜ、あれにDVDレコーダー機能を付けなかったのか。あの時点で“おまかせまる録”だったコクーンにDVDレコーダー機能があれば、オニに金棒でしたのに。当時は、どうしたら最強のものをつくれるかということに、全社的に気が回っていなかったんでしょう。自分たちの所だけで、正解にしてしまって、横のつながりが悪かった。まさしく大企業病ですね。

――今後の“ソニー復活”で必要なものは?

麻倉氏: デジタルへの潮流が本格化した2000年以降は、技術開発を大胆に舵取りできるトップが必要だったのです。やはりユーザーがソニーに求めるのは「ソニーらしい、ソニーならではの画期的な製品」。それを開発するためには、自分が面白いと思うものを貪欲に追求し、“こだわりのモノづくり”でユーザーに提案する。このような井深スタイルの開発リーダーシップこそが、これからのソニーに必要になってくると思います。

 デジタルは「諸刃の刃」です。扱う人の考えひとつで、面白くも、詰まらなくもなります。デジタルがもたらす普遍性、均一性、低コストの面ばかりに着目すると、平凡なものになってしまいます。しかし、切り口がとびきりユニークで、個性的なら、ワン・アンド・オンリーの他の追随を許さない技術も可能なのです。いまソニーに求められているのは、後者のデジタルなのです。

 その例はすでに出ています。例えば、「QUALIA001 クリエーションボックス」(Q001-CB01)です。ハイビジョン画質を圧倒的に向上させるだけでなく、さまざまな映像の仕掛けを有する映像プロセッサーが、ソニーがつくったと言う点にまだまだこの会社は未来があると思いました。もうひとつ、AVアンプも素晴らしいこだわりでつくられています。この音を聴くと、ソニーの現場はまだまだ強いのだと確信しますね。

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