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コラム
» 2005年08月29日 12時00分 公開

小寺信良:デジタルテレビに潜む危険と脆弱性 (4/4)

[小寺信良,ITmedia]
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シンプルなテレビの存在も認めるべきでは

 こう考えると、現在のデジタルテレビとは非常に脆弱であり、また危険な情報端末であることがわかる。個人情報端末として、漏洩などがあるとまっさきにやり玉に挙がるのがWindows PCであるが、これなどはそうやって以前からさんざん叩かれてきた歴史があるだけに、いろいろな手段で防御する態勢ができあがってきている。

 LANとWANのIP変換にしても、今はルーターを使用することが常識となっているし、OSにパーソナルファイヤーウォールも搭載された。またウィルス駆除ソフトが常にウェブ接続やメール送受信の状況を見張っていて、新しい脅威に対して対抗できるような状態になっている。

 また最近では個人情報保護の観点から、指紋認証などの方法でロック解除する装置も、比較的簡単に手にはいるようになった。ノートPCでは、既にこのような装置を組み込んでいる機種もある。

 ユーザーの意識次第のところは多分にあるにしても、現在のWindows PCは、外部からの脅威に対してさほど脆弱とは言えないレベルになっているのではないだろうか。

 一方で、同じくハードウェアをソフトウェアが制御するタイプの製品であるデジタルテレビが怖いのは、何かの脅威に対してユーザーが対抗できる手段がまったくないところにある。また今頃になって実態調査を始めたようなことから、メーカーにも政府にも、テレビがハッキングやクラッキングの対象となるところまでは、考えが至っていなかったのだろう。

 「ウィルスバスター for デジタルテレビ」など存在しない現在、ユーザーにできることと言えば、個人情報を常に消去しておき、ファームウェアのアップデートも勝手に行なわれないように設定しておくことぐらいだろうか。だがそれらの機能を捨ててしまったら、とても「未来のデジタルテレビ」とは言えなくなってしまう。

 アナログ放送の停波は中止した方がいいのではないか、という世論もあるわけだが、総務省ではアナログ放送停波のXデーを2011年7月24日と「予告」し、これまでの方針に少しの揺らぎもないことを強調している。

 だが見方を変えれば、このような脆弱なシステムへの乗り換えを、政府が強要していることにもなる。すべてのテレビがデジタル化されたとき、筆者が心配するのは、災害時の緊急報道である。

 例えば昨年の新潟中越地震のときに、筆者は現場入りしていろいろな現状を見てきた(別記事参照:前編後編)のだが、そのときの経験からすれば、被災者にとってテレビによる情報提供というのは非常に重要だ。避難場所にどこかからテレビを引っ張ってきてアンテナさえ立てれば、とりあえずなんか映る、というぐらいレガシーな部分を残しておかないと、放送というのは役に立たないのではないか。

 ラジオがあるじゃないか、と言われるかもしれないが、現在ラジオを保有している人は、テレビに比べれば格段に低いだろう。また「百聞は一見にしかず」のことわざどおり、地図や人名などの情報は、音声で聴くよりもグラフィカルに映像で見た方が、早く正確に伝達できる。

 放送法によれば、1章 第6条の2に「災害の場合の放送」として、

「放送事業者は、国内放送を行うに当たり、暴風、豪雨、洪水、地震、大規模な火事その他による災害が発生し、又は発生するおそれがある場合には、その発生を予防し、又はその被害を軽減するために役立つ放送をするようにしなければならない。」

とある。確かに局側は情報を放送するにしても、それを見る手段がはたしてデジタルテレビだけで、本当に大丈夫なのだろうか。

 今のデジタルテレビは、メニューを出したり設定を変更したりするのに、本体だけではできない。だが災害時には、本体は無事でもリモコンが壊れたりなくなったりすることもあるだろう。見るのは各自の努力と責任で、と言われても、これでは困らないか?


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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