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BS第9チャンネルをどう利用するのか?西正(2/2 ページ)

» 2005年09月29日 20時16分 公開
[西正,ITmedia]
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 有料モデルが難しい理由として、日本人の多くがテレビは無料だと思っているからだなどという意見は見当違いもいいところである。スカパー!の登場から相当の年数を数えており、ペイテレビ自体に対する抵抗感は薄れつつある。スター・チャンネルも有料である。

 しかし、先行している事業者が苦労しているのに、新規参入事業者が新たなる有料モデルで簡単に成功することは考えにくい。BSデジタル放送の発足時と違い、今では地デジ対応も含め、BS、110度CSを受信可能な三波共用機が急速に普及しつつある。もはやBSデジタル放送のみに対応したテレビ(地上波はアナログ)を店頭に陳列している電気店はないと言っていいほどだ。

 BSデジタル放送が見られるテレビならば、110度CSも見られるわけである。110度CSの普及もいまひとつだが、同じ衛星放送としてコスト計算をすれば、明らかにCSの方が安いはずだ。新規にBS第9チャンネルに参入して有料放送を行うくらいなら、最初から110度CSで放送事業を行うべきであろう。110度CSもいずれHD化されることになっている。画質の問題でも差別化は図れない。

 つまり、有料モデルで新規にBSに参入するくらいなら、まだ110度CSに参入した方が事業計画は描きやすいのである。

 となると、BS第9チャンネルへの参入を希望する事業者にとって、広告モデルで行くのも難しいし、有料モデルで行くのも難しいということになる。

ショッピングチャンネルという選択

 BS第9チャンネルに新規参入して、きちんとしたビジネスモデルを構築する方法として残っているのが、ショッピングチャンネルである。これならば広告モデルや有料モデルでなくとも、独自のビジネスモデルを展開できる可能性は十分に考えられる。

 新規参入を申し出た事業者の顔ぶれには、日本最大のショップチャンネルを追走するQVCを傘下に持つ三井物産の名前が挙がっている。

 BS放送は総務省的には準基幹放送として位置づけられているので、ショッピングチャンネルだけでは免許される可能性は低いが、どの候補者もショッピングだけに特化することは考えておらず、アニメや教育といったジャンルの番組とのセットで免許申請を行うことになるだろう。

 とは言っても、ショッピング・通販系のコンテンツは欠かせないのではないか。その理由は簡単である。ショップチャンネルにしてもQVCにしても、スカパー!直接受信、CATV経由でも相当な数の視聴可能世帯を確保しているが、実際に最も売上げ増に貢献しているのは地上波アナログ放送のVHF帯の空きチャンネルで流している見せ方である。

 よくビデオを見終わった時にビデオの電源を切ると、何故かショップチャンネルやQVCの画面が映っているのをご覧になった方は多いと思う。あれが空きチャンネル利用である。

ショップチャンネルにしてもQVCにしても、実は売上げの相当大きな部分をこのアナログVHF帯の空きチャンネルの視聴者から上げている。

 地上波がデジタルになると、空きチャンネルはなくなってしまう。そこで失う“売り場面積”の大きさを考えると、BS第9チャンネルに参入して再び売り場面積の拡大を図ろうと考える戦略は非常に理解しやすい。

 ただ、難題は残される。地上波の空きチャンネル利用の場合、視聴者はショッピングチャンネルを見ようと考えて視聴していたというより、むしろテレビをつけっ放しにしていたら何となく映っていたので画面を見ていたところ、ちょっと欲しいものがあったので買ってしまうというスタイルが多かったのだろうと思う。何となく映っているということは非常に強みなのだ。

 BS第9チャンネルに新規参入できたとしても、地上波VHF帯の空きチャンネル利用を失う部分をカバーできるかどうかは未知数である。IP放送に進出しても同じである。

 どう考えても「今日は会社を早く切り上げて、午後8時からショッピングチャンネルを見よう」という視聴者がそんなにいるとは思えない。つまり自然に目に入ってくるところが強かったわけであり、わざわざショッピングチャンネルを見ようと思ってテレビのチャンネルを回す人がどれだけいるのかということである。

 そういう意味では、BS第9チャンネルに参入するだけでは、今後失うであろう売り場面積を取り戻すことは難しいと思われる。ショップチャンネルを抱えるジュピタープログラミングが参入を見合わせたのも、そうした状況を踏まえてコスト対効果の面で割が合わないと考えたからに違いない。

 BS第9チャンネルに新規参入して成功しそうなモデルはと言えば、前述したようにショッピング・通販系のチャンネルが最有力であることに変わりはない。ただ、色々と新たな魅力を発揮できるようなコンテンツも併せて用意することによって視聴者を誘導することができれば、BS第9チャンネルに新規参入することの効果は大きなものとなりそうな予感がする。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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