地上波放送局の番組制作にとって、制作プロダクションは不可欠の存在である。ただし、需給関係からすれば、ソフトの主たる出口である地上波局はNHKと5つの民放キー局が中心になるのに対し、制作プロダクションの数は圧倒的に多い。結果として両者間には明らかな上下関係が生じ、制作プロダクションは疲弊しつつある。
放送局とプロダクションの関係がバランス感を欠いているのは今に始まったことではない。両者の取引関係を是正すべく、何度も公正取引委員会等からの注意が喚起されてきた。しかし、需給関係が改善していないことから、結局は元の状態に戻ってしまい、いつまで経っても制作プロダクション側の立場は向上する気配がない。
広告料収入は景気変動の影響を受けやすい。地上波民放は比較的その影響が軽微だと言われてきたが、実は制作プロダクションに支払うコストを調整することによって、放送局側の被る影響を抑えてきたのが実情だ。そのため、ここに来て制作プロダクション側の疲弊が目立ち始めている。
疲弊は財務面に限らない。あまりに厳しい状況に、新たな人材が入ってこなくなっているばかりか、既存の人員も減少傾向にある。番組制作に携わる人のスタートラインはAD(アシスタント・ディレクター)と呼ばれる、半ば雑用係的な仕事になる。3Kの典型のような仕事だが、どこの業界でも入社したての若者は下積みから始まるので、ADばかりが悲惨だとは言えない。ただ、次なるステップがあってこそ下積みも続ける意欲が持てるのであって、将来展望が見えないのでは、嫌になって辞めてしまう者が続出するのは当然だろう。
制作現場に欠かせないADだが、制作プロダクション側のADと、地上波局側のADとでは、明らかに立場が大きく違う。制作プロダクション側のADは賃金水準も低く、まさに「映像制作が好きだから」という動機付けを強く持ち続けない限り、職場に定着しにくい。この状況は増す一方だ。
一方、地上波局のADは、2、3年もしないうちに、「A」の取れたディレクターへと転進していく。年収が一千万円の大台を越えるのも早いことで有名な放送業界である。同じ仕事をしながら短期間で大きな待遇格差が出てくるところに若者たちが残らないことは、やむを得ないと言わざるを得ない。
放送業界でディレクターを育てるのに時間とコストがかかることは、以前述べたとおりだ。それは、制作プロダクション側とて同じである。制作プロダクションの協力なくして番組制作ができない以上、次代を担うはずの人材が育たない現状を放置しておいたのでは、いずれ日本の放送文化の発展に深刻な影響を及ぼすことになりかねない。
そもそも今の有力な制作プロダクションは、テレビ放送が草創期を経た頃に、局の方針から自由な番組作りを行いたいと考えた人たちが独立して作った会社が多い。当然のことながら、プロデューサーとしてもディレクターとしても十分な実力を持った人材であったわけである。
しかし、「匠の技」は伝承されることにより続いていくように、番組作りのノウハウも次の世代、またその次の世代へと継承されていかなければ、いずれは高い制作力も衰えていく。給与水準だけが仕事を選ぶ動機ではないにしても、一方で生活というものを抱えている以上、相応の処遇がなされるべきことは必要不可欠だ。
そのためにも、地上波局との取引関係の改善を提唱することは間違いではないと思う。だが、一向に改善が見られなかった過去の経緯を踏まえると、別の事業者から資金が制作プロダクションに流れ込むような仕組みについても、改めて検討に値する時期に来ていると言えるのではないだろうか?
ここ10年のスパンで考えた場合に、明らかに大きく変わったのは、ペイテレビの台頭ということだろう。WOWOW、スカパーの多チャンネルは、「テレビはタダ」という国民の先入観をすこしずつだが変え始めていることは確かだ。米国に比べればペイテレビの視聴シェアはまだ低いが、逆に言えば、わが国のペイテレビ市場はまだまだ伸びていく余地を残しているのである。
とはいえ、ペイテレビのシェアが伸びてきたとは言っても、今の段階では地上波と比較の対象になるほどのものではない。ペイテレビで流されるソフトは、本来ならばフリーテレビよりも早く視聴できるものであるべきだが、専門ジャンルに特化することによって成功している一部のチャンネルを除けば、「地上波のお古」を流しているのが現状だ。
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