映像配信サービスが新たなステージに入りつつある。旧来の映像配信サービスはADSLやFTTH、CATVなど高速化した回線のメリットをどのようにユーザーへ訴求するかという側面が強く、ともすれば「入れ物を作ってから中身を考える」的な考えが底面にあったことは否めない。
しかし、高速回線も定着が進んできたことから、各社共に「映像がネットで気軽に見られます」という以外のプラスアルファを模索し、提供し始めている。NTT東西は人気アニメのTV放送後に独自の連携コンテンツをFLET'S網内で提供し人気を博したほか、シネマナウは外資系というメリットを活用してワーナー・ブラザースなど、ハリウッドメジャーの作品を提供している。
こうしたコンテンツ的な充実もさることながら、普及の兆しを見せ始めているのが、高精細なHD(ハイディフィション)映像の配信だ。ディスカバリー・ジャパンが2005年12月からハイビジョン専門チャンネル「ディスカバリーHD」を提供しているほか、オン・デマンド・ティービーも6月下旬から本サービスを開始する計画を発表している。
関西電力系通信会社のケイ・オプティコムもHD映像の配信について以前より取り組みを進めており、2004年11月にコーデックにH.264を用いた実験を行ったほか、2006年1月にはVC-1を使用した実験も開始している(現在も継続中)。
同社は家庭用テレビ向けのゲーム・オン・デマンドサービスや3次元ビデオ映像の公開配信実験など、新サービスへ積極的に取り組むことで知られているが、HD映像の配信についてどのようなビジョンを持っているのか、サービス戦略グループ コンテンツ・アプリ開発チームの西岡知一氏(チームマネージャー)と松田守弘氏に話を聞いた
――まず、なぜHD映像の配信に取り組んだのかを教えてください。
西岡氏: なんといっても地上デジタル放送の存在が大きいです。普及すれば、よりきれいな(高精細な)映像が当たり前になるからです。加えて、各種エンコード技術に実用化の兆しが見えてきたことも大きいです。放送波に比べて帯域幅が広くとれるFTTHで映像を配信すれば、よりクオリティの高い映像を配信できるのでは?と思い立ち、配信実験を開始しました。
――2004年に行ったH.264配信実験の手応えはどうだったのでしょう? また、そこから何か課題は得られたのでしょうか(実験では最大ビットレート12Mbps/480Pの映像を配信した)。
西岡氏: 応募開始からすぐに定員がいっぱいになってしまうなど、ユーザーからの反応は非常にポジティブなものでした。期待感のようなものを感じましたね。
課題のひとつとして明らかになったのは、PC側の処理能力です。この実験では専用のプレーヤーソフトを配布し、ストリーミング形式で映像の配信を行ったのですが、当時のエントリー/ミドルクラスのPCでは処理能力が追いつかず、映像がコマ落ちすることもあったようです。
――2006年1月からはコーデックをVC-1に変更して配信実験を行っています。なぜ今回はVC-1を選んだのでしょう?
西岡氏: 正直な話、HD映像配信についてはまだ実験段階と考えているからです。前回はH.264のストリーミング形式でしたが、今回はVC-1のダウンロード形式と提供方法も変えています。
松田氏: 「技術の広がり」という面ではH.264に一日の長があるように思いますが、より高精細な映像を実現するハイプロファイルという規格については、規格化が完全に終了しておらず、その時期がいつになるか分からないという課題があります。
一方のVC-1はマイクロソフト主導の規格ということもあり、プラットフォームをPCと考えた場合、親和性が高く、再生時にクライアントへかける負担も少なく感じます。ただ、どちらを選択するかという判断を下す前に、まだまだ今後の技術動向を見守る必要があると思います。
今回(VC-1)の提供はダウンロード形式で行っているせいか、前回に比べて使いやすいという意見が寄せられています。ただ、720P(1280×720ピクセル)のHD映像という非常に“重い”コンテンツ(2chオーディオの2時間映画で約7Gバイトほど)なので、PCスペックの問題はいまだにすべて解決されているとは言い難いですね。プレーヤーソフトもさらに作り込んでいかなければならないでしょう。
※VC-1配信実験に際して開設されている実験サイトでは、HD映像(720P)の視聴に推奨するPCスペックとして「CPU Pentium 4 3.2GHz/Pentium M 770 2.13GHz /Pentium D 3GHz相当以上、メインメモリ1Gバイト以上、ビデオメモリ128Mバイト以上、システムドライブに20Gバイト以上の空き容量」をあげている。
――これまでの実験を通じて、H.264とVC-1に優劣をつけるとすれば?
松田氏: 映像のクオリティについては優劣つけがたいです。強いて言えばコーディング技術の蓄積の違いでしょうか。どちらがメインストリームとなるのかは分かりません。
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