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フォーマット戦争は、そう長く続かない――20世紀FOX次世代DVDへの挑戦(2/3 ページ)

» 2006年03月17日 19時46分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 あまり話題に上ることはないが、BDビデオ規格にはBD+という追加的な著作権保護対策機能が含まれている。

 この中にはアナログ的な手法で埋め込まれた複製が非常に困難な固有IDを埋め込むBDマークや、AACSのクラック手法が開発された場合にも、後からディスクに追加プログラムを入れて出荷することでクラッキング対策を行える仮想マシン技術などが含まれる。

 BD+を実装するには、プレーヤー上でクラック対策プログラムを走らせるセキュアな仮想マシンを動かす必要があり、この実装がBDプレーヤー開発の手間を増やし、出荷時期が遅くなったとも言われる(たとえばプレイステーション3のBDプレーヤー機能などでも、後から追加でBD+が入ったため開発が遅れたとの情報がある)。

 さらにBD+はマネージドコピーを阻害するのでは? といった懸念も、一部では噴出していた(実際にはマネージドコピーを阻害する要因にはならない)。

 そもそも128ビット鍵による暗号化が行われるBDビデオソフトで、本当にこうした追加的なコンテンツ保護対策が必要だったのか。

 「われわれはBDはもちろん、DVD Forumを通じてHD DVDにも、自分たちが必要だと考えるコンテンツ保護技術の実装を訴えてきました。そして両規格の信頼性を検討した結果、追加的な機能が必要という結論に達したのです。BDにはわれわれの要望が実装され、BD+という仕様になったのです」

 しかし十分な暗号強度があると考えられ、AACSでの議論でも必要とされなかった技術に関して、なぜそこまでこだわる必要があるのだろう。実際のところ、BDに対してソフトを供給する映画会社の中で、BD+を実際に活用するには20世紀フォックスだけだろうといわれている。

 「われわれはAACSの暗号強度に、現時点で不安を抱いているわけではありません。しかし高品質のHD映像を販売するということは、映像マスターをそのまま販売している行為に近い。これがハックされてしまうと、われわれは重要な資産を失うことになります。セキュリティシステムの信頼度評価うんぬんではなく、万が一、将来の技術でハックされた場合に、コンテンツを提供する側で、その脅威に対して出口を塞ぐ手段がほしかった。BDマークも同様です。これらの機能があるからこそ、思い切ってマスタークオリティのコンテンツを発売できます」

フォーマット戦争は、そう長くは続かない

 ではHD DVDとBDに割れてしまった規格に対して、どのような考えを持っているのか。

 「BDは、すばらしいコンテンツ保護技術を実装してくれました。基本的には1つのフォーマットになることを望んでおり、各社がベストの画質、ベストの音質でコンテンツを提供してほしいし、われわれもクオリティにこだわったパッケージを販売したい。正直に言えば、早くフォーマットが統一されてほしいが、20世紀フォックスとしては自分たちが望んでいたセキュリティと品質を併せ持つBD向けにコンテンツビジネスが始まることを喜んでいます」

 とはいえ、いつまでもフォーマット戦争を続けるわけにはいかない。近い将来、ひとつのフォーマットに統一される可能性を、20世紀フォックスはどのように見ているのだろう。

 「それは私にもわかりません。しかし、VHSとベータの時ほど深刻ではないと考えています。映画業界は、今すぐにHDコンテンツの流通が始まることを期待していますし、すでにHDTVが消費者の生活の中に入り込んできています。日本でも、販売されているうち40%ぐらいの映像製品がHD対応しているはずです」

 「よくSACDやDVD-Audioは普及に失敗したと言われますが、それとBDは事情がかなり違います。すでにHDTVの普及が始まっており、DVDではそうした高性能なディスプレイ向けのパッケージとしては力不足です。HDTVの能力に見合う、より良いパッケージメディアを映画業界は必要としています。放送やブロードバンド配信の映像がHD化していく中、パッケージがHDに行かない理由はありません。HDTVの普及とともにプレーヤの価格も下がり、最終的には安いプレーヤーが登場するでしょう。ゲーム機での再生も可能になることもあり、フォーマット戦争はすぐに終わると考えています」

 インタビュー時点でも、PS3の発売が遅れることがハリウッドでも話題になっていた。当時、ハリウッドでは9月説が有力だったが(実際には11月)、それでもPS3はフォーマット戦争を終わらせるためのキーファークターとなり得ると考えているのだろうか?

 「もちろんイエスです。映画業界だけでなく、ゲーム業界やそのほかさまざまな業界が、BDを用いてコンテンツを提供しようとしています。光ディスクで供給されるコンテンツは映画がすべてではありません。多種多様のコンテンツが世の中にはあり、それらの中でも大きな経済効果を生むゲーム業界が利用することの意味は大きいと思います」

 発売初期から500ドルを切ったHD DVDプレーヤーの価格設定は、ゲーム機と同じような効果を生むことはないかもしれない。しかし、聞き慣れた“DVD”のブランドを冠したプレーヤーが手の届く価格帯にあれば、それは魅力に感じるのでは?

 「現時点において、500ドルを切っているのは驚きだ。確かにやすい。多少の影響は出るかもしれない。しかし、いずれにしても50ドルで購入できるDVDプレーヤーがある以上、一般の人にとってみれば“10倍のプライスタグが付いた特別高価な高級映像プレーヤー”だ。規格立ち上げ時にHD映像パッケージを楽しみたいというユーザーは、安価なものではなく、より高品質な製品を選ぼうとするだろう。高品質な製品を作るにはコストがかかり、価格も当然高くなる。これはテレビやオーディオ機器でも同じこと。大型のHDTVを購入し、HD放送を楽しんでいる高品質指向の消費者は、現在ある高品質の機器に見合う製品をほしがる」

 「将来、価格によって普及が一気に広がっていく“マジックプライス”というポイントが生まれてくるだろうが、それは500ドルよりももっと低いところにある」

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