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Blu-ray Disc制作の現場で“二層”の実力を探る――ソニーPCL(2/2 ページ)

» 2006年09月19日 20時34分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 デモはまず業務用の2K DLPプロジェクターを用いたスクリーニングルームで行われた。ここでの映像は主に映画のトレーラー、すなわち予告編を集めたクリップ。いずれも平均35MbpsのVBRでエンコードされている。

photophoto ソニーPCLのオーサリングシステム構成(左)とVTR機材

 BD-ROMは最大で映像に40Mbps、音声に14Mbps(各音声合計)を割り当てたトランスポートストリームで構成されており、35Mbpsのデモは最大ビットレートの固定ビットレートに近いもの。ハリウッドでの評価では、24Mbpsあれば満足なHD画質が得られるとされており、デモの映像がキレイなことは数字を見るだけでも明らか。

 実際、デモをさらりと見ただけでは、問題は全く見あたらない。一部の映画は輪郭がソフトな仕上げになっていたが、これはマスターそのものの特性だろう。「ニューシネマパラダイス」のような、中程度の粒度を持つグレインが多めに含まれる映像も、歪み感少なく再現されていた(ただしあくまでデモ用に圧縮された映像であり、そのまま発売されるわけではない)。MPEG-2特有のクセ(パタパタとパターンが切り替わるようなノイズ感)は見られたが、ほとんど気付かないレベルである。

 問題は、これだけの高ビットレートでタイトルが登場するか否かだ。高ビットレートが高画質というのは、言ってみれば当然のこと。本当に高ビットレートで発売できるかどうかが問題である。

半分以上は2層ディスクに

 ソニーPCLによると、1層にするか2層にするかは、コンテンツホルダー自身の選択となる。全体の尺が短いコンテンツまで2層にする必要はないからだ。しかし、実際に高ビットレートの映像を見せると、多くの顧客(つまりコンテンツホルダー)は2層を選択するという。尺の短いコンテンツを合わせても、トータルで半分以上、2/3近くが2層での制作になる。

 2層は高価なのになぜ? と思うかもしれないが、スピンコート方式の2層ディスクが量産されるようになれば、フィルム工程を用いる場合に比べ、1枚あたりのコストはグッと安くなる。もちろん2層の方がコスト高であることは変わらないが、オーサリングやエンコード、原盤制作などのコストを考えれば、規格立ち上げ時の現段階で1枚当たりのわずかなコストを下げるよりも、コンテンツの付加価値(ここでは50Gバイトというシンボル的な数字とそれに伴う画質)を高めた方が、トータルのビジネスとしてはプラスになるという判断があるからだろう。

 実際、同社で制作が進められているアニメ作品「イノセンス」のBD版は、平均37.5Mbpsという高ビットレートで圧縮が行われている。PCLのコンプレッショニスト(映像圧縮エンジニア)は「シーンチェンジ時にIフレームを割り当てるなどの微調整を行うことで、前編を通して歪みやノイズが目立つことのない圧縮が行える。もっともMPEG圧縮がやりにくい“祭りのシーン”で、ビット配分や量子化マトリックスの調整を行う程度」と話す。

photophoto 制作手順(左)とVBR 35Mbpsで制作された「イノセンス」(右)

 実際に圧縮作業を行っているところを見せていただいたが、確かに祭りのシーンは微調整が必要なように見える。2パスで自動的に圧縮しただけの状態では、ごく一部に歪みやノイズが見えた。また、グレイン(ソニーPCLによるとイノセンスはデジタル制作のアニメだが、フィルム感を出すためにグレインノイズが埋め込まれているそうだ)の粒度やパターンが、オリジナルとはやや違って見える。しかし、これらはビット配分や量子化マトリックスのカスタマイズで、大幅に軽減できるだろう。

 特典映像がSD制作とすると、50Gバイトのディスクで45Gバイト近くは本編に利用できる。デモで使われた35MbpsのMPEG-2というのも、2層ディスクを前提ならば一般的な2時間前後の映画であれば現実的なビットレートであり、そうした意味では大いに期待を持たせるイベントだったといえる(できることなら、すでにSPEで圧縮されている映像に関しても、2層ディスクに高ビットレートで制作し直してほしいほどの差があった)。

年内に月20タイトルの体制に

 初めてSPEのBDタイトルを見たときは、これならば「できの良いBSデジタル放送の方が具合が良いのでは?」と思ったが、しかし国内向けには2層の容量を活かしたタイトルが多くなるとのこと。こうした規格立ち上げ時は、どんなタイトルにも手を抜かず、可能な限りの高画質を実現しなければ「この規格はこの程度」と誤解される可能性がある。繰り返しになるが、器は入れ物でしかなく、中身が悪ければユーザーは高品質と見てはくれない。

 北米で発売されているタイトルを見る限り、HD DVDも徐々に高画質なディスクが増えてきており、これにBDで松下電器、ソニーともに画質を重視したコンテンツを制作してくれれば、年末の商戦期には“次世代らしい”パッケージソフトが供給されるだろう。

 ソニーPCLは、現在は月に10タイトルの制作キャパシティを、年末には月20タイトル程度まで増強する予定という。初めて次世代ディスクのパッケージコンテンツを購入したユーザーが、購入したことを後悔することのないよう、制作面でのサポートをソニー本社に期待したい。

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