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PCによるオーディオプロセッシングの世界小寺信良(3/3 ページ)

» 2006年10月10日 09時07分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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明瞭感の向上が見込める補正効果

 実際にSandoboxに搭載されているCircle Surround IIはCircle Surroundを改良したもので、2chの音声を強制的にデコードしてサラウンド化するわけだが、これがなかなか心地よい。一時期PCのサラウンド化は非常に流行ったので、そういうサラウンドシステムを構築した人も多いと思うが、廉価なものではなかなか思うようなサウンドが得られずにガッカリして、そのまま放置状態になっているのではないだろうか。

 だがSandboxのCircle Surround IIは、スピーカー特性のヘタレな部分を補完する技術も入っている。サラウンド効果もナチュラルで、聴いていると「最初からそういうもんだ」という具合になじむ。時折効果をOFFにして、「あ、なしだとこうだよね、そうそう」とつい確認してしまう。

 サラウンド環境がない場合は、WOW HDが役に立つ。これまでノートPCやスピーカー一体型PCで聴く場合には、満足な音質が得られなかったことだろう。これをWOW HDで補正することで、まずまず聴ける音になる。HiFiという立ち位置ではないが、ライトユースには十分だろう。Sandboxには効果を調整できるパラメータもあるので、ある程度実態に合わせて音を作っていくこともできる。

 TrueSurround XTは、2chスピーカーのみの環境でバーチャルサラウンドを提供する。特に日本の住宅事情を考えると、ディスクリートなサラウンドスピーカーシステムは、時に非現実的に見えるものだ。日本の環境では、潜在的にバーチャルサラウンド技術に対して依存率が高い市場であると言える。

 これまで2chのバーチャルサラウンドシステムは、ハードウェア組み込みのものが多かったわけだが、とりあえずPCとソフトウェアだけで聴ける環境もできたことは、喜ばしい。

 Headphone 360は、深夜の映画鑑賞に使える機能だ。ヘッドフォンを使ったバーチャルサラウンド技術は、「ドルビーヘッドフォン」がもっともよく知られるところだが、Headphone 360の基幹技術は、プロのサラウンド収録でも使用されている。

 サラウンドの収録では、前出のトラック数も問題だが、どうやってサラウンドを現場でモニターするかも大きな問題だ。現場ではどうしても密閉型ヘッドフォンによるモニタリングが必須だが、耳は2つしかない。前と後ろの音を2人で別々に聴くわけにもいかず困ったところだが、SRS Headphone PROという技術を使ってバーチャルサラウンドで正確なモニタリングをする、というプロ用機材が今年リリースされた。

 Headphone 360の特徴は、バーチャルの割には定位感がしっかりしているところだ。ドルビーヘッドフォンも素晴らしい技術だが、このような研究は年々進化する。互換を保つために進化をFixしたものと、最新の技術を取り入れたものでは、必然的に差が出てしかるべきものなのである。

 SRS Audio Sandboxは、リーズナブルに音をアップグレードできる、PCならではのソリューションだと言える。オーディオセットに3000円程度のパーツを増強しても、ここまでの劇的な効果は得られないだろう。

 PCで音楽など聴けたもんじゃない、という人もいる。まあその言い分もわからないではないが、だから聴けるようにするのだ、という方向性で考えていくことで、また新しい体験ができるのである。常にチャレンジャーであることもまた、PCユーザーの特権であろう。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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