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インタビュー
» 2006年12月26日 16時24分 公開

ソニー「TA-DA3200ES」がアナログアンプに立ち返った理由 (3/4)

[本田雅一,ITmedia]

逆風の中で生まれたDA3200ESの企画

 もっとも2006年末というタイミングは、AVアンプを企画・設計・販売するメーカーにとって、力を入れづらい時期である。次世代光ディスクに対応した新しい音声コーデックが登場しつつある状況の中、音声を伝送するのに不可欠なHDMIインタフェースの規格がアップデートを繰り返している。

 音に惚れてAVアンプを買ったはいいが、1〜2年後には使い物にならないというのでは、大枚をはたけないというのが、消費者の正直な気持ちだろう。

 実際にはプレーヤー側で音声をデコードしてからリニアPCMで送信できるため、HDMI 1.1以上であればBDやHD DVDに収められた高品位オーディオトラックの再生はできる。その場合、映像面でHDMI 1.3の目玉機能である「DeepColor」(8ビットを超える階調を扱う機能)が使えなくなるが、実際にはデジタル放送もDVDや次世代光ディスクソフトも8ビット階調で制作されているため、HDMI 1.3は必須ではない。

 だが、消費者の心理を考えれば「それでも、やっぱり今は……」となる。同じ考え方は、もちろんソニー内部でもあったという。時期を外して来年でもいいじゃないか。そういう声もあったようだ。

 しかしオーディオ事業本部統合商品企画MKグループ・プロダクトマネジャーの小川一郎氏は、ある確信を持って商品を企画していた。

photo S-Master PRO搭載は最初から考えていなかったという商品企画担当の小川一郎氏

 「10万以下の中級価格帯は『DB790』を商品化して時間が経過し商品力が薄れてきたところで新機軸を発表しようと考えました。HDMI 1.3の噂が出始めた頃に新仕様を検討し、リニアPCMで高品位なオーディオソースを受け付けることが出来るなら、プレーヤー側が対応することでAVセンター側の新コーデック対応は必須ではない。そういう打ち出し方をしようと1年前から決めていました」(小川氏)。

 もちろん、説明をして納得してもらえなければ、いくら大丈夫と言ったところで顧客には受け入れられない。だが「音声フォーマットは複数あり、各社の仕様書や対応チップのスケジュールを考えると、とても全部を最初から搭載することはできません。われわれが考えなければならないのは、最終的にお客様のところでどんな音が鳴るかですから、無理に音声フォーマットの対応を増やそうとして出荷が遅くなったり、中途半端なデコーダを搭載して誰も使わないといったことを避けたかった」と、小川氏は考えた。

 その結果が24ビット192KHzまでの音声を8チャンネル受信可能なHDMIポートを持ち、10万円を切る「TA-DA3200ES」の商品企画だった。どうせこの年末はダメ。売れない時期に完全新規の機種を作るべきではないという考えを捨てて、あえてチャレンジしたわけだ。

 「デジタルのS-Master PRO搭載は最初から捨てていました。この価格帯ならアナログアンプの方が良い音になると確信していたからです。デジタルのマルチチャンネルアンプはノイズ対策が重要で、繊細なチューニングや生産工程での入念な管理が必要です。それはこの価格帯では出来ない。安定して良い音を出せ、安価に作れるとなるとアナログしかないと思ったんです」(小川氏)。

photo 音質のチューニングを担当したのは、本誌でもお馴染みの金井隆氏

 商品企画という仕事は、マーケットの状況と社内で使える手駒を見比べながら、可能な限り売れる、売りやすい製品を企画するのが仕事だ。この3年間、デジタルアンプで評価されてきたことを考えれば、音質はともかくデジタルアンプの方が“売りやすい”に違いない。この点については、設計側も「次もデジタルをやれというのでは」と考えていたため驚いたという。

 「そういう視点は僕にはありません。顧客にとっての評価点は音質なのですから、10万円以下ではアナログと躊躇なく決めました。高いデジタルアンプの評価が高いからといって、それをそのまま安くしてダメにするという考え方は間違っています」(小川氏)。

 このような考えから、低価格機ながら最終の音質チューニングの追い込みを、本誌でもお馴染みの音質チューナー、金井隆氏に任せた。ソニーは毎年、年に1台だけ徹底して最終の音質チューニングを行ってから国内に製品を出すという方針でAVアンプを作っている。同じ機種でも米国などでは日本より早く発売するのはそのためだ。検証作業の繰り返しで時間がかかるため、数多くの製品を追い込むことはできない。

 その1年に1モデルが低価格機の「TA-DA3200ES」だったところに、小川氏のこの製品にかける意気込みがわかる。

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