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ソニー「TA-DA3200ES」がアナログアンプに立ち返った理由(4/4 ページ)

» 2006年12月26日 16時24分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 さて、最後に話を聞いたのはHDMI周りの設計を行ったオーディオ事業本部ホームオーディオ事業部エレクトリカルエンジニアの小松英治氏だ。小松氏はHDMI経由の音質が低下する原因と対策を調査し、その結果を反映させる作業に取り組んだ。

photo HDMI周りの設計を行った小松英治氏。HDMI音声の質を落とす犯人がジッターであることを突き止めた

 HDMIからの音声出力は、HDMIの映像信号のブランク期間に送信される。ところが原理的には高音質になるハズのHDMI音声が、実はSPDIFやi.Linkよりも劣る場合があった。しかも、従来は代替経路で受け取れば良かったのだが、次世代光ディスクの音声はHDMI経由でしか送れない運用既定になっている。

 以前、HDMI音声の音質を比較する機会があったが、機種による差も大きいが、何より一様にエア感が失われる(音がアッサリと消えてしまい、表情やニュアンスが単純化される)傾向が強く、情報量も少ない実につまらない音になっていた。加えてHDMIのリンク速度が速いほど音が悪くなるようで、480i/P(両者とも同じ速度)よりも、720P/1080i(この両者も同じ速度)、さらに1080Pと音質が低下していく。

 「そうした傾向があることは、これまでの経験で自社・他社製品を含めてあることはわかっていました。そこでHDMI音声の質を改善する取り組みにTA-DA3200ESから本格的に取り組んだのですが、測定機器で検証した結果、一番大きな原因はジッターだろうという結論に達しています」(小松氏)。

 HDMIは電源ラインやグランドラインなどに加え、複数のツイストペアケーブルで信号をシリアル送信している。音声信号はレシーバー側が信号を受け取り、内蔵のPLLでロックをかけてデジタル音声信号に組み直されるが、その際にグランドが激しく揺れて出力信号に大きな揺らぎが出るという。その傾向はリンク速度が速くなるほど強まる。

 「HDMIではトランスミッターが映像情報を渡すとき4つのツイストペアケーブルでシリアル伝送します。この伝送経路の影響もありますが、さらにそれを受け取るICは内部で30本の信号ラインに分割し、3.3ボルト振幅で処理する仕様になっています。ところが1080Pでは内部処理150MHzという高速クロックで3.3ボルトと振幅も狭いため、これがレシーバーチップのグランドをものすごく揺さぶり、出力するデジタル信号のジッターを生み出してしまう。送受信には専用のICを使うしかないため、通常の設計ではHDMIの音質が他方式よりも悪くなっていたのです」(小松氏)。

 このため、たとえばAVアンプのHDMIモニタアウトにディスプレイをつなぐだけでも音質が変化するという、非常に不安定な状態になっていた。加えて信号を観察していると、映像信号の有無でも音質が変化することに気付いた。

 「HDCPで暗号化されているため、実際には真っ黒の映像でも信号は流れるのですが、映像を載せる場合と載せない場合ではジッターの量が大きく違います。PS3のSACD再生で映像出力をアナログにしていると音質が良くなるのはこのためです。レシーバーチップのグランドの揺れはクロックが遅いほど緩和されるため、低速なリンクほど音が良くなります。将来的には、プレーヤー側でHDMIの送りをオーディオと映像で分割しないと良くならないでしょう」(小松氏)。

 とはいえ、原因がレシーバーICの中にあるとすれば、根本的な対策は施しにくい。しかし「TA-DA3200ES」のHDMIレシーバーは、以前のモノに比べてかなり改善した。傾向は異なるが、これは他社製AVアンプも同じ。たとえばデノンやヤマハなどは以前からHDMIの音がさほど悪くなかったが、今年はさらに改善されてきた。パイオニアはHDMIで受けたときの音質が急激に落ちる現象があったものの、今年のモデルでは大幅に改善している。では、「TA-DA3200ES」ではどのようにして音質を改善したのか。

photo TA-DA3200ESのリアパネル

 「レシーバーICのグランドが原因とわかったので、IC周りのグランドを徹底的に強化しました。グランドの揺れは音と同時に出す映像の複雑度にも影響するため、もっともグランドが揺れる条件の映像を探し、それを出しながらグランドが安定する設計を試行錯誤して見つけています。加えてレシーバーICの動かし方を工夫しました。具体的には、レシーバー内蔵のオーディオクロックを生成するPLLの安定化を行っていますが、このあたりはノウハウもあり詳しくは説明できません」(小松氏)。

 「また1080Pの音質ですが、一部の機種同士の組み合わせで可能な1080/24P伝送であれば、リンク速度は720P/1080iと同じで、転送するデータ量も1080/60iよりも少なくなるため、1080/60Pに比べて改善されます。ただ今後、HDMI 1.3のDeepColorが加わってくると、レシーバーICのクロックは今の1.5倍になり、音質的には今よりもさらに厳しくなります。とはいえ、それが世の中の進む方向ですから、これから1080PのDeepColorでも音質が落ちないような工夫を今後も重ねていきます」(小松氏)。

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