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» 2007年08月10日 11時27分 公開

DVDレビュー:れこめんどDVD:「毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト」 (1/2)

ポートレートという写真ジャンルを革新した写真家、ダイアン・アーバスを主人公としたフィクション。監督のシャインバーグは彼女という不世出の芸術家を、愛とエロスをもって描き出す。

[皆川ちか,ITmedia]

 カメラマンである夫の仕事を手伝う貞淑で美しい妻。謎めいた隣人が現われたことから、彼女に変化が訪れる。それまで心の奥底に抑えこんでいた激しい情熱があふれ出し、妻は別人へと変貌する……。これはある写真家の伝記ではなく、平穏な生活を送っていた主婦が異形の芸術家へと変身する瞬間を切り取った映画だ。

「毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト」

発売日:2007年8月3日
価格:3990円
発売元:ギャガ・コミュニケーションズ
上映時間:122分(本編)
製作年度:2006年
画面サイズ:ビスタサイズ・スクイーズ
音声(1):ドルビーデジタル/5.1ch/英語
音声(2):ドルビーデジタル/2.0ch/日本語

 小人や巨人など奇形の人々を題材とした写真を撮り、ポートレート写真というジャンルを革新した女流写真家ダイアン・アーバス。1923年、ニューヨークの裕福な毛皮商の家に生まれた彼女は、写真家である夫の助手として仕事を手伝ううち、写真に興味を抱きはじめる。夫妻の写真はファッション誌「ヴォーグ」や「ハーパース・バザー」の表紙を飾り、ファッション・フォトグラファーとして順調に活躍する。

 しかし、うわべだけ美しく取り繕ったファッション写真に疑問を抱くようになったダイアンは、女流写真家リセット・モデルの師事を受け、自分が本当に撮りたいものを求め、アメリカ全土をバスで旅しながら写真を撮る。その結果、当時の一般社会から黙殺されていたフリークスに惹かれ、彼らをモデルに衝撃的な写真を発表していく。

 そんなダイアンの写真にまず注目したのは、ニューヨークの同性愛者たちだった。彼女の写真を嫌悪する人々がいる一方で、評価は徐々に高まり、67年にはニューヨーク近代美術館への出品を果たす。しかし夫と離婚して2年後の48歳のときに、バルビツール酸塩を大量に服用し、両手首を切って自殺する。

 生まれながらに困難を負い、それでもたくましく生きるフリークスを「精神的貴族」と呼んだダイアンの写真は多くの人間に影響を与え、そのひとりに「2001年宇宙の旅」(68)で知られる映画監督スタンリー・キューブリックがいる。代表作のひとつ「シャイニング」(80)で、もっとも有名なシーン、幽霊ホテルの廊下に幼い姉妹の幽霊が突如現われる姿は、ダイアンが67年に撮った双子の少女「Identical twins, Roselle, N.J.」から着想を得ている。写真家出身のキューブリックは、ダイアン本人とも交流があった。

 本作の監督スティーヴン・シャインバーグは、少年時代に、ユダヤ人の大男とその両親を撮したダイアンの写真「A Jewish giant at home with his parents in the Bronx, N.Y.」に強いショックを受け、その体験がこの映画を作る萌芽になったという。

ダイアンが貞淑な妻をやめたワケ

 

「毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト」(06)は、厳密にいえば伝記ではなく、ダイアン・アーバスを主人公としたフィクション、つまり虚構のドラマである。

 映画はバスに揺られるダイアンが、ヌーディスト村へ向かうところから始まる。

 あなたたちを写真に収めたいというダイアンの申し出に、ヌーディストの夫婦は撮影者も全裸になるならば、と条件を出す。逡巡するダイアンは、ふと、なぜ自分は家から遠く離れた、こんなヌーディスト村に来ているのだろうと考える。そして、自分の人生が変わってしまうきっかけとなった、3カ月前のある日を思い出す……。

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