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iPod時代に5年半ノーモデルチェンジのB&O BeoSound2を使うプロフェッサー JOEの「Gadget・ガジェット・がじぇっと!」(3/3 ページ)

» 2007年09月25日 11時00分 公開
[竹村譲,ITmedia]
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ヘッドフォンの重要性

 アウトドアでは無い「インルームオーディオ」では、スピーカーが再生装置全体の中で、音楽的キャラクターを決定する大きなポーションを占めることは一般的によく知られている。モバイルオーディオではスピーカーに該当するモノは「ヘッドフォン」だ。廉価なデスクトップオーディオは、任意のスピーカーシステムを前提としてシステムを組み上げて行くことで、コストパフォーマンスの良いシステムを組み上げることが可能だ。


photo 背面の曲面ミラー仕上げはiPodより精密で柔らかいカーブが魅力的だ

 アップル社のiPodがあらかじめヘッドフォンが付属して発売されているのは、本体であるDAPと再生の鍵を握るヘッドフォンの組み合わせを限定して価格性能比の優れた、そして買ってすぐ楽しめるキッティング・オファーなのだ。BeoSound2においてもその考え方は同様だろう。オーディオ装置もITシステムやクルマと同様、一番大事なのは、「バランス」なのだ。

 人類の全てが顔や性格が異なる様に、耳の構造や聴力、音響特性も異なることは簡単に想像できる。そして商品を開発するメーカーがトータルなコストの内、どの程度をヘッドフォンに割り当てるかはメーカーの考え方により異なり、トータルコストの大小でも異なる割合となる。基本的にはキッティングされたヘッドフォンとの組み合わせが「全平均的ベスト」とは考えられるが、聴く音楽のジャンルや環境、生まれながらの耳の特性、後天的理由などにより複雑だ。

 市場に溢れる膨大な数のヘッドフォンは、多くのメーカーから発売されるDAPの種類の増加と、人間の耳の特性の多様性、ヘッドフォンを変えることで大きく表情を変える音楽の面白さが主な理由だろう。「良い音」と「好きな音」を比較することは難しいが、ここでは後者を目指して筆者がBeoSound2と組み合わせて試した幾つかの例をご紹介したい。


photo 標準付属のA8イヤーフォン。フレキシブル過ぎる構造のために、外界音の遮断性に弱さがでてしまう。サウンドその物はソリッドでタイトだ。オールラウンドな音楽ジャンルに向いているBeoSound2専用ケースもオシャレだ

 BeoSound2は明らかに全体のバランスを重要視して開発された製品だ。同じ開発意図で作られたと思われる標準付属のA8イヤフォンは、静かな環境でオーディオ聴くにはベストの組み合わせだ。昨今では多くのヘッドフォンがカナル型(耳栓型)デザインを採用し、外界音の遮断を目的の一部としている。自分で環境をコントロールできる自宅やオフィスを一歩でも出ると、東京などの騒音は桁違いだ。周囲の音に負けないように想定外なレンジに入るほどボリュームをアップすると、高域と低域のパワーバランスに破綻が生じることも多い。

 A8は音楽的に素晴らしい特性を持ち、まるで油圧で動作しているかのような錯覚を起こさせるフレキシブルな物理構造を持っている。全ての人の耳の外郭にフィットする形状デザインはヘッドフォン界にセンセーションを起こした商品だろう。しかし、北欧の静かなデンマークでは良くても、東京では適度なボリュームで外界騒音との音圧差を保てる設計にはなっていない。厳密にはインイヤー型では無くパッド型なので、周囲の騒音や音楽によっては低域の量感が不足気味に感じるが、全体的にソリッドで輪郭のハッキリした筆者の好みのタイプだ。


photo コストパフォーマンスは悪くないが、「道楽」観点で評価した場合、かなり不満が残るBOSEのヘッドフォン。エージングでの音の変化に期待か……

 最近人気のBOSE社のインイヤーヘッドフォンは、ノイズリダクションで一躍有名になった同社初のインイヤー型だ。1万数千円のヘッドフォンが高いか安いかは人によって異なる感覚だろうが、実際の音は残念ながら筆者の好みでは無かった。自宅以外では、クラシックを除くハードロックやブルース、ポップスなどを聴くことが多い。これらの音楽の場合、馬力は感じられるが、BOSEとBeoSound2の組み合わせは、幕の裏の、楽屋で聴くバックステージのイメージだった。良くも悪くもBOSEであると分かる音作りだ。


photo BOSE社はヘッドフォンよりも専用ケースが秀逸。収納パフォーマンスは最高だ。筆者は、SHURE E500をBOSEのケースに入れて毎日使っている

 購入後まだ間もないので今後のエージングで何処まで音楽的特性が変わるかにもよるが、アイアンメイデンの「ディファレントワールド」では、バスドラムの音が直径1インチ大きく緩く聞こえ、ライドシンバルのトップをドラムスティックの腹で叩くカンカンという独特の音がかなりこもって聞こえにくい。おおむね、バランスが低域寄りにあり、その影響で高域がこもりがちなサウンドになってしまうようだ。比較的ナチュラルな音をまっすぐ送り出すBeoSound2には向いていないように感じた。iPodでも同じ曲を試聴したが、BeoSound2ほど顕著では無いが同様の傾向は感じられた。

 最終的に筆者がBeoSound2用に選んだヘッドフォンは、お決まりのように米国SHURE社のE500となった。実売約6万円と価格的には非常に高いが、BeoSound2との組み合わせは筆者にとってはアルチメイトだ。オーディオ的には骨董品にあたる60年代後半から70年代初頭の「クリーム」のLIVEアルバムを聴いても、ジンジャベーカーのツインバスドラムと比較的不鮮明な音のギブソンEB-0を弾くジャックブルースの掛け合いのセパレーションも聞き取れる。


photo 現在は友人に譲ったSHURE社のE5c。評判通りのハイパフォーマンスサウンドだ。ハードなケーブルワイヤーが少し扱い辛い

 前述の「ディファレントワールド」では、スネアドラムのシャープなリムショット音も、バスドラムのタイトな音も、ライドシンバルのアタック音も限りなくLIVEに近い。全ての曲でBOSEに見られたバックステージ的印象は皆無で、限りなくステージに近いアリーナのベストシートで聴いている音のイメージだ。それでいて長時間の再生でも耳に疲労感は残らない。これは、同じSHURE社のE5cとケーブルの素材による装着感の違いも大きいと思われる。E500のケーブルは柔らかくスムースで良く馴染む。


photo 2GバイトまでのSDカードに対応している。SanDisk社の製品との相性がベストだ。非対応製品ユーザーも専用サイトからドライバソフトをダウンロードしてアップグレードできる

 今は、2GバイトのSDカードに対応した最新バージョンのBeoSound2が店頭に並んでいる。音楽データをアーティスト別やアルバム別に整理、管理することが日々の目的でなければ、BeoPlayerとUSB経由のドッキングステーションを使用したロースピードの音楽データ転送では無く、PCから直接SDカードに書き込む高速転送が可能になった。筆者はWindows Media Playerでデジタル化したWMAファイルをホルダー単位でSDカードにドラッグ&ドロップしてその日聴くアルバムを転送している。

 転送されたSDカードをBeoSound2に挿入し、SDカードを再生する前に、転送された全てのフォルダや曲目を認識をさせるため、BeoSound2上のトラック下げボタンと音量下げボタンを同時に長押しする必要がある。暫くすると確認音がし、SDカードにドラッグ&ドロップで転送した全ての音楽データの再生が可能となる。残念ながらBeoSound2は漢字などのダブルバイト文字を認識できないので、SDカードに転送する前に、ホルダー名やファイル名は半角アルファベットに修正しておく必要がある。


photo 標準付属のBeoSound2用ネックストラップ。多少高級感が不足気味だ。首からぶら下げると位置的にウルトラマンの胸のピカピカのようだ。やはりルイ・ヴィトン社から発売されていた専用革ケースが最高だろう

 BeoSound2には専用のネックストラップが同梱されており、SHURE E500ヘッドフォンを延長ケーブル無しで最も短く使うと長さがピッタリだ。2002年春に発売出荷されたBeoSound2ではあるが、今もデザイン的古さを感じることは皆無だ。その上、オーディオ的には最新のDAPに全く引けをとらない。もうすぐ手元に届く最新のiPod Touchと比較するのが楽しみだ。

 SONY社のWalkmanが一世風靡した過去の時代。そして今は右を見ても左を見てもiPodの時代。みんなと同じモノは嫌な筆者のDAPは、ここしばらくはBeoSound2で決まりだ。毎年モデルチェンジするのが当たり前の日米の商品と、数年以上、時には10年間以上モデルチェンジしない欧州のパーソナルオーディオがあっても良いだろう。


photo 現時点で筆者の道楽的感覚ではベストのSHURE E500。専用ケースはBOSEの圧勝

 B&O社のBeoSound2とSHURE社のE500、5年間使い続ければ、年2万数千円。洗練された先進の機能デザインと、ハイクオリティなサウンド、滅多に何処かで誰かと同じにならない希少性、エージングとともに益々良くなる音楽性、そして他のDAPでは味わえない自己満足が最高だ。アウトドアとは言え、オーディオという楽しい「道楽」に「価格性能比」などという無粋なモノを持ち出すことは間違いだろう。しかし、筆者の様に清水の舞台から飛ばなくても良い人が自分の価値観と選択眼を信じて購入するディジタルな逸品だ。

商品:Bang & Olufsen社「BeoSound2」

http://www.bo-ss.jp/beosound2.html

BANG AND OLUFSEN 表参道スターストア

  http://www.bo-ss.jp/

価格:7万7700円(定価)


竹村譲氏は、日本アイ・ビー・エム在籍中は、DOS/V生みの親として知られるほか、超大型汎用コンピュータからThinkPadに至る商品企画や販売戦略を担当。今は亡き「秋葉原・カレーの東洋」のホットスポット化など数々の珍企画でも話題を呼んだ。自らモバイルワーキングを実践する“ロードウォーリア”であり、「ゼロ・ハリ」のペンネームで、数多くの著作がある。2004年、日本IBMを早期退職し、国立大学の芸術系学部の教授となる。2005年3月、より幅広い活動を目指し、教授職を辞任。現在、国立 富山大学芸術文化学部 非常勤講師。専門は「ブランド・マネジメント」や「デザイン・コミュニケーション」。また同時に、IT企業の広報、マーケティング顧問などを務める。

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