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海外新興テレビメーカーの攻勢本田雅一のTV Style

» 2007年10月05日 08時51分 公開
[本田雅一,ITmedia]
photo 幕張メッセで開催中の「CEATEC JAPAN 2007」

 本来ならば先週の続きで液晶テレビの選び方をお届けしたいところだが、今週は「CEATEC JAPAN 2007」が開催された。そこで、CEATEC会場で拾った話題に触れていきたい。

 といても、各社が薄さを競った次世代液晶テレビの話題でも、ショウ前日に発表されたソニーの有機ELテレビの話でもない(有機ELに関しては、いずれこの連載の中で触れたいと思う)。来年以降を見据えた薄型テレビ業界について、ビジネスの面で消費者にも無視できない出来事が、CEATEC会場のメーカー関係者の間では大きな話題になっていた。

 今回はその話題の内容について触れていきたい。

新興テレビメーカーが米国で大きなシェアを獲得

 すでにいくつかのビジネスニュースで伝えられているが、北米の薄型テレビ市場には、今年、大きな異変が起きている。Vizio(ビジオ)という新興テレビメーカーが、並み居る強豪を押し退け、シェアのトップ争いをしている。会員制ディスカウントストアのコストコと契約し、47インチ液晶テレビを1500ドルを切る価格で販売し、山積みされた在庫をバンバン売りまくっているのだ。

 ビジオは中国系アメリカ人が5年前にカリフォルニアで設立した会社で、自社では工場を一切持たず、他社から調達した部品を中国の契約工場で生産する仮想製造業者。設計は台湾や中国の業者が行う。他にもウェスティングハウスやポラロイドなど、さまざまなブランドで展開しているが、ビジオが伸びた理由は全米に店舗を持つ流通と契約し、高級薄型テレビの半額で販売したからだ。

photo VizioのWebサイト。魅了的な価格の大画面テレビが並ぶが……

 こうした仮想製造業者は通常の薄型テレビに比べ、2〜2.5倍ものマージンを販売店に持たせて販売棚を確保し、日本製品の半額で売る。このため、価格的には少し無理して評判の良い家電メーカー製を買っていた層や、寝室やパーソナルルームに置く、手頃な価格の薄型テレビを探している人たちが、ビジオ製品を選んでいるのだ。

 もっとも、画質、デザイン、使い勝手など、あらゆる面で、誰もが認めるほどに品質は低い。必要な部品を集めてきて、スペック通りに部品を組み合わせて出来上がりなので、トーンカーブも色も、“たぶん、それなりに見えるだろう程度”にしかならない。要は映るだけに近い。見る人が見れば、明らかに変な絵なのだが、半額以下の値札が持つ魔力に消費者は弱いものだ。

 こうしたメーカーは、テレビの完成品を作るために必要な技術特許の問題をクリアしていないこともあるため、いずれは訴訟などを抱えて市場から撤退する可能性もある。また、あまりに品質差が大きいため、コストコのような製品の質を比べて売ろうという指向性が全くない販売店以外は、さほど力を入れて扱ってはいない。

 さらには、現在はパネル工場への投資競争などで、世界的にテレビ用ディスプレイパネルが余っている状況だが、今後を考えれば仮想製造業者へのパネル供給も絞られてくるだろう。大型のテレビ用ディスプレイパネルを生産できる会社は限られているため、あまりに仮想製造業者が伸してくるようだと、自らのビジネスを守るためにも出荷を制限してくると考えられるからだ。

 それでもビジオのような成功例が出てくると、たとえビジオがなくなっても、後追いで次々に似たようなメーカーが登場してくるものだ。また、薄型テレビに対する価値観にも変化を与えてしまうため、やっぱり日本メーカー製がいいと思っている消費者も、今までと同じ値段では買ってくれなくなり、正常な競争化での価格低下を遙かに上回るペースで低価格化が進んでしまう。

 さらに欧州の例などを見ると、“画質が全くダメ”なところばかりではなく、それなりに見れる程度の画質に整えて出している新興メーカーもある。米国におけるポラロイドのように、外国企業の隆盛で失われた各国の老舗ナショナルブランドを買い取り、デジタル家電メーカーとして復活させることで、手っ取り早く市場に浸透させようとしている例もある。

 やや話が横道に逸れかけたが、北米の薄型テレビ市場に大きな影響が出ている。特にシェア至上主義で販売を拡大してきたメーカーほど影響は大きく、逆にプレミアム性で勝負するメーカーへの影響は今のところ少ない。

 “なんだ、海の向こうの話か”と思うかもしれないが、実際には日本の消費者にもいくつもの影響が出てくる。

 ひとつは薄型テレビの画質進化が止まる可能性が出てくること。価格主導で世界最大の北米市場が動くようになってくれば、ディスプレイパネルの生産技術も画質よりコストを優先せざるを得なくなってくる。さらに消費者が調整もしていない作りっぱなしのデジタルディスプレイに慣れてしまうと、日本メーカーの十八番である細やかな絵作りなど無視されてしまう。

 品質志向の製品が全くなくなることはないだろうが、全く画質にケアしていないローエンド製品と、高画質を狙った高価格製品に二極化し、手ごろな価格で高画質・高品質のテレビが買えなくなるかもしれない。液晶やプラズマに代わる、新しいディスプレイ技術の勃興にも悪影響を与えるだろう。新技術による発展は、市場の発展とセットでなければ成し遂げるのは難しくなる。

 現時点で「もうすぐ高品質なテレビは買えなくなる!」と、ハイビジョンブラウン管の製造が終了した頃のように騒ぐ必要はないが、今後の業界動向次第では中国系の仮想製造業者のテレビが日本にも流入してくる可能性はゼロではない。そんなとき、皆さんは半額の仮想製造業者を選ぶだろうか? それとも画質と信頼性の高い日本メーカー製を選ぶだろうか?

 日本の家電各社が、どのようにして、この状況を切り抜けるのか。次のカードを切るのは、攻められている日本メーカーであってほしいものだ。

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