そのイメージは、プライスタグにも素直に表れている。4万4480円(ソニースタイル直販価格)という価格は、ヘッドフォンに分類するとかなりの高級品に属することになるが、そのスタイリッシュな外観を見る限り、充分に妥当な印象を持つ。しかし考え方をすこし変え、これがあくまでもスピーカーだという前提に切り替えると、けっして高価な部類ではなくなる。
4万円半ばの予算では、ミドルクラスのブックシェルフスピーカーが候補に挙がる程度。現実問題としてパワーアンプも必要となってくるから、実際には2万半ば円程度のスピーカーと同等といえる。そういった側面から考えると、小型化によってリーズナブルなコストを実現したスピーカー、という位置づけも考えられる。
手軽に「いつもの」サウンドが持ち運べる点、質感の高いスタイリッシュなデザイン、ヘッドフォンとしては高価だがスピーカーとして考えるとリーズナブルな価格という3点から考えると、「音質やスタイルにはこだわるけど大々的なオーディオシステムはいや」「パソコンや小型液晶テレビでもいい音を楽しみたい」「家族が多いのでリビングではあまり大きな音が出せない」といったユーザーあたりがターゲットとなっているのだろう。
さて肝心の音質についてだが、これもなかなかの好印象。PFR-V1は単体でも使用可能だが、出力の低い携帯プレーヤー用に単四形乾電池2本で動作するブースターユニットが付属している。まずはこちらをつかって、iPodと組み合わせた。
最初に驚くのはステレオイメージの確かさだ。ヘッドフォンに近いカタチをしていることもあり、聴く側としてはついそういった音場を想像してしまうのだが、出てくる音はまったく違う。定位感のしっかりした揺るぎのないステレオイメージが、顔の前面、こめかみあたりから左右に大きく広がる。ステレオイメージが前頭葉あたりを横断しているのが何とも残念なところだが、それがかえって音源を間近に感じる要素にもなっているので一概には否定できない。
一方、解像度やキメの細やかさに関してはまったく文句のない上質さをもつ。特に高音域への伸びが秀逸だ。フラットで特性の良い、どこまでも伸び続ける高音によって楽器が心地よい響きを披露してくれる。なかでもオーボエなどの管楽器が印象的で、力強い音のなかに紛れる細やかなビブラートまでも感じ取れ、それにシンクロしてこちらの心までもふるわされてしまう。
正直なところ、iPodに収録した圧縮音楽ではPFR-V1が完全にオーバースペック。そこで機材をホーム用のユニバーサルプレーヤー+AVアンプ(DVD-A11+AVC-A1SR/接続はデノンリンク)に換え、CDを試聴してみることに。するとさらに音場が広がって、試聴していた6畳間の短い壁いっぱいまで音場が広がっていった。これだけのスケール感があれば、据え置き型スピーカーの変わりは充分果たしてくれるだろう。サウンドクオリティーもさらに向上、音に多少の力強さも備わってきたため、男性ボーカルなどがかなり好印象となった。
ここまでクオリティーが高いと、逆に弱点も目についてしまう。PFR-V1の最大のウイークポイントは、やはり低域側の再生能力だろう。バスレフダクトの恩恵で、ボトムエンドへの伸びはサイズを考えると望外の健闘をしているが、高域への伸びが素晴らしい分、もうひとガンバリが欲しいところ。個人的にはピークが上がり気味なのも気になる。もう少し抑えめにしつつ、ポイントを少し低域側にスライドさせることができれば、ハイファイ系スピーカーとして充分に納得できるはずだ。
一方でDVDビデオの視聴と組み合わせてみると見事にハマった。明瞭なセリフの歯切れと迫力ある効果音が見事に両立されており、その馴染みの良さは2.1chスピーカーと表現してもいいくらいだ。PFR-V1のサウンドクオリティーがかなり高いためピュアオーディオ機器としての能力をつい求めてしまうが、本来はこういった使い方がベストなのかもしれない。
どこでも持ち運べる手軽さと、価格に見合ったクオリティー。そしてスタイリッシュなデザイン。PFR-V1の魅力は多岐にわたる。その斬新なコンセプトも含めて、いちど気に入ってしまうと手放せなくなる、そんなユニークなスピーカーの誕生を心から歓迎したい。
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