両耳に当てて音楽を聴くステレオヘッドフォン(以下、ヘッドフォン)は、ケーブルを通じて送られてきた電気信号を音波に変換する。外観や周波数特性は異なるが、振動板を震わせて音を鳴らす仕組みは同じだ。駆動方式でいえばダイナミック型や静電型、構造でいえば密閉型や開放型など数種類に分類できるが、いずれも“耳元でスピーカーを鳴らして”いることに違いはない。
しかしここ数年、音楽の聴き方が多様化するとともに、そのバリエーションにも変化が現れた。
そのひとつが、ノイズキャンセリング(NC)ヘッドフォン。スピーカーに加え小型マイクを内蔵、そのマイクで拾った周囲の雑音と正反対の波形データ(逆位相)をスピーカーへ出力して、雑音を大幅にカットする仕組みを備えている。完全に打ち消すことはできないが、他人の話し声などの環境雑音は確実に低下する。雑音が気になるときにはついボリュームを上げてしまうが、NCヘッドフォンならばその必要がない。難聴対策にも一役買う、ポータブルオーディオ時代のヘッドフォンなのだ。
サラウンドヘッドフォンも従来の方法では分類しにくい。これまでヘッドフォンといえば2chステレオが常識だったが、DVDやゲーム機など5.1chの音を収録したソースが一般化し、ニーズにあわせて登場した格好だ。5.1chの音場を再現する仕組みは大きく2種類あり、片側に3〜4つづつスピーカーを内蔵するタイプと、ドルビーヘッドフォン技術のように擬似的にサラウンドを実現するタイプ。前者は専用のヘッドフォンを使うが、後者は音声信号の処理に特化したプロセッサ(DSP)により音場を再現するため、どのヘッドフォンでもサラウンドを楽しめる。
極めつけは、頭蓋骨を振動させ内耳で音を感じ取る骨伝導ヘッドフォン。Hi-Fiの度合いでは従来型のヘッドフォンに引けをとるものの、難聴気味の人でも音楽を楽しめる(かもしれない)などの利点もある。将来性を秘めた、これからに期待の技術といえるだろう。
音を鳴らす構造には直接関係ないが、ワイヤレス化の波はヘッドフォンにも到来している。従来から赤外線を利用したワイヤレスヘッドフォンは存在したが、ここ数年は無線LANと同じ2.4GHz帯を使用したデジタル無線方式が普及してきた。じゃまなケーブルがないことはもちろん、プラズマテレビの放射光や遮断物による音切れがないことが人気の理由だ。
データの転送にBluetoothを利用したワイヤレスヘッドフォンも要注目。赤外線方式に比べ消費電力が低いことから、ポータブルオーディオや携帯電話での利用に適しているとされる。他のワイヤレス通信と干渉しにくいこともポイントだ。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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