HDビデオカメラで撮影した映像データは、そのまま再生する場合にはHDMI、レコーダーに転送する場合にはi.LINKを利用するのが一般的。しかし同等の速度でデータをワイヤレス転送できるようになれば、一気に普及が進む可能性もある。
今年のInternational CESで注目を集めていた技術の1つが、「高速ワイヤレス通信規格」。対応機器が店頭にならぶ時期は早くても年末とみられているが、メーカー各社はすでに対応を開始している。
WirelessHDは、AV機器用の高速ワイヤレス通信仕様制定を目指す業界団体。2006年11月に設立され、日本勢では松下電器とソニー、東芝にNEC、海外勢ではLG ElectronicsやSamsung、Intelといった企業が名を連ねている。
その団体が規定したフォーマットが、今年1月のInternational CES開幕直前に公開された「WirelessHD 1.0」。コンセプトは「HDMIの無線化」で、テレビやレコーダー、ビデオカメラなどのAV機器間でHD映像をワイヤレス転送することが目的だ。使用する周波数帯は、国際的に免許不要な60GHz帯、最大で4Gbpsという高速なワイヤレス接続が可能になる。著作権保護技術「DTCP」のほか、機器制御用信号もサポートされる。
ただし、この周波数帯は直進性が高く障害物に弱い。反射を利用することである程度は回避できるものの、通信距離は10メートル以内が前提。障害物があればさらに短くなる。HDMIを置き換えるというよりは、補完的な役割で普及が進むものと考えられる。
もう1つの高速無線規格は、International CESにあわせてソニーが発表した「TransferJet」 (2008 International CES:“飛ばさない”高速無線技術、ソニーが開発)。周波数帯にはWireless USBと同じ4.48GHz帯を使用、最高通信速度は480Mbps(実行速度は約375Mbps)と、USB 2.0に匹敵する高速性を持つ。
こちらの規格も、HD映像の転送を意識した仕様となっているが、通信可能範囲は3センチ以内と短い。ソニーの近接無線通信(非接触ICカード)技術「Felica」のように、デバイスをかざして通信を行うスタイルだ。その通信可能範囲の狭さからいって、据え置き型AV機器よりもデジタルカメラやビデオカメラなど携帯型デバイスをターゲットとした規格であり、WirelessHDとの競合は考えにくい。ソニー単独の規格ということもあり、ソニー製品限定で採用が進むことが予想される。
大容量データ転送用ワイヤレス通信規格 | ||||
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名称 | 最高通信速度(理論値) | 想定される通信距離 | 使用する周波数 | DTCP対応 |
Wireless USB | 480Mbps | 3メートル前後 | 4.48GHz帯ほか | × |
WirelessHD | 4Gbps | 10メートル以内 | 60GHz帯 | ○ |
TransferJet | 560Mbps | 3センチ以内 | 4.48GHz帯 | ○ |
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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