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「ドルビーボリューム」が“オリジナルに忠実”な理由東芝REGZAに採用

» 2008年07月03日 02時18分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 気持ちよく映画を見ていたのに、CMに変わった途端、音がうるさくなって気分をそがれたことはないだろうか。

 あるいは、夜中にヒミツのDVDを鑑賞しようとしたら、音の大きさに驚いて、あわててリモコンを探したことはないだろうか。

 ドルビーの「ドルビーボリューム」は、そうしたコンテンツ間、ソース間で生じる音量レベルの違いを自動調整してくれる機能。2007年のCESで発表され、この春に登場した東芝“REGZA”の上位モデル「ZH500」「ZV500」シリーズに初めて搭載された。

 もっとも、音量を自動調節するだけなら、これまでもオーディオコンプレッサーやオートゲインコンプレッサー(AGC)などいくつかのソリューションがあった。実際、REGZAの先代フラグシップにあたる「Z3500」シリーズにもAGC機能が搭載されている。

 では、ドルビーボリュームは従来型の音量自動調整機能と何が違うのか。ドルビージャパン、プロダクトマーケティング部シニア・マネージャーの尾関沢人氏と、東芝デジタルメディアネットワーク社テレビ事業部日本部の本村裕史参事に詳しい話を聞いた。

photophoto ZH500シリーズ(左)。東芝デジタルメディアネットワーク社テレビ事業部日本部の本村裕史参事とドルビージャパン、プロダクトマーケティング部シニア・マネージャーの尾関沢人氏(右)

 「ドルビーボリュームの効果として、まず音量レベルのバラツキを解消する音量調整機能が挙げられます。しかし、それだけではドルビーが提供する意味はありません」(尾関氏)

 尾関氏は、従来型の音量自動調整機能では、ブリージングやパンピングと呼ばれる不自然さが発生するケースも多かったと指摘する。例えば、会話と会話の間に沈黙があるシーン。沈黙に入り、音量が小さいと判断したAGCは、背景の小さな音を徐々に上げていく。このため、音量調整機能のパラメータ設定にもよるが、“人の呼吸音”のような雑音(ブリージング)が聞こえてくるという。

 また、音が小さいからといって音量レベルだけ上げると、効果音やBGMがやせてくる。いずれにしても「制作者の意図からは外れた音になってしまいます」。

photo AGCでは、沈黙の部分にブリージングが発生することがあった

 対してドルビーボリュームでは、人間の聴覚心理学モデルを応用して、マルチバンドのゲイン補正をダイナミックに行う。「人間の耳は、(人の声がよく聞こえるように)中音に対する感度が高く、低音や高音に対する感度は低いもの。周波数ごとに適した処理を行わなければ、聞こえるはずの音も出てきません」(尾関氏)。

photo 緑色の線がドルビーボリュームの処理ゲイン。音量が大きい時(左)は下側にカーブを描くようにゲイン調整している。このカーブが、音量を下げても背景音やBGMがしっかり聞こえる秘密だ

 ドルビーボリュームでは、BGMや効果音を含めたすべての音が、人が知覚できる最小の音圧レベル――“聴覚しきい値”(Hearing Threshold、写真左下参照)を下回らないレベルをキープする。その上で、オリジナルの周波数バランスを再現する仕組みだ。

 さらに、テレビのボリューム値も参照している。これは、周波数ごとに聴覚しきい値を結んだ“等感曲線”(写真右下)が音量レベルによって微妙に異なっているため。ボリューム値ごとに調整の仕方を変える必要があるという。

photophoto 聴覚しきい値(左)と等感曲線(右)

 具体的な手順としては、まず音声信号をフーリエ変換して変換係数(周波数軸上のデータ)を「ラウドネス係数」と呼ばれるの独自モデルに置きかえる。その際、周波数は20バンドに分割。その上でテレビからボリュームの位置情報(音量)を得て、音量および周波数帯域調整後の新しい数値を作り、これを再び変換係数としてバックする仕組み。ソース間、コンテンツ間の音量を一定にするといえば一言で済むが、実際にオリジナル音声のニュアンスを再現しようとすると、非常に複雑な処理が発生することが分かる。

photo ドルビーボリュームの処理概要

 東芝REGZAの場合、ドルビーボリュームの処理は映像処理エンジンとして知られる「パワー・メタブレイン」が担当している。東芝の本村氏によると、ドルビーのアルゴリズムを取り込んだファームウェアは「非常に重い」ため、実装に苦労したという。「本当はZ3500のときに(ドルビーボリュームを)入れたかったが、さまざまな制約で実現できなかった。今回もギリギリのタイミングでなんとか押し込んだ」。

 なお、冒頭で触れたようにZ3500シリーズにもAGC機能が搭載されているが、デフォルト設定は“オフ”。対してZH500/ZV500シリーズはドルビーボリューム“オン”で出荷されている。

 「従来のソリューションは、音量は一定にできても“聞けば分かる”くらい音質が悪くなってしまう。(ZH500/ZV500を)ドルビーボリュームをオンにした状態で販売することは、音質に対する自信の表れと受け取ってほしい」(本村氏)。


 もちろん、ドルビーボリュームはテレビだけに有効な機能というわけではない。尾関氏によるとマルチチャンネルへの対応も可能で、今後はAVアンプやホームシアターセットなどにも採用される可能性が高いという。「年末から来年初めごろには、何か新しい製品を紹介できるのではないでしょうか」(ドルビーの尾関氏)。

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