音声をデジタル信号で送波する「デジタルラジオ」。その試みは、1991年に開局された世界初の衛星デジタルラジオ「セント・ギガ」(2006年に事実上の停波)ですでに実用化されているが、デジタルラジオは地上波を利用することが特徴だ。
その地上波とは「VHF帯」。2011年のアナログテレビ放送停止後に空きが生じる周波数帯(90〜108、170〜222MHz)を、デジタル音声放送に利用しようという算段だ。ラジオ局各社が参加するデジタルラジオ推進協会は、2003年以来、、VHF帯のうち未使用の周波数帯を使い試験放送(東京・大阪地区のみ)を実施してきた。
その流れを受け、ラジオ局10社(TBSラジオ&コミュニケーションズ、文化放送、ニッポン放送、ベイエフエム、エフエムナックファイブ、横浜エフエム放送、毎日放送、朝日放送、大阪放送、FM802)により10月6日に設立された団体が「デジタルラジオ全国連絡協議会」。従来は地域ごとに独立した組織として活動が続けられてきたが、2011年7月が予定される本放送開始までに情報の共有や周波数帯の確保を行うことが狙いだ。
この「地上デジタル音声放送」は、総務省主導で実施される「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」の方向性に沿って仕様が正式決定される。ここでは、ほぼ確実と考えられる仕様について紹介する。
通信方式は、ISDB-TSB(Integrated Services Digital Broadcasting - Terrestrial for Sound Broadcasting)となる。地上デジタル放送の規格(ISDB-T)をベースに策定され、デジタル変調方式にはゴースト妨害に強いOFDM、コーデックには高圧縮率のMPEG-2 AACを採用、CDなみのクリアな音質で番組を聴取できる。
各放送局に割り当てられる周波数帯は3つのセグメント(1セグメントあたり約300kbps)に分割され、5.1chサラウンド音声のほか、静止画や簡易な動画も扱うことができる。9月末からは、一部放送局が試験的にサイマル放送を開始している。
対応するハードウェアも増加中だ。地上デジタル音声放送に積極的なauの携帯電話を例にすると、2007年6月時点で対応機種の累計契約数は100万台を突破しており、将来的には、ラジオ単体の販売やカーナビへの搭載が進む見込みだ。
ただし業界内部では思惑の違いがあるらしい。例えば、エフエム東京やエフエム大阪は、現時点でデジタルラジオ全国連絡協議会への参加を表明していない。そもそもエフエム東京は、民放用の帯域を一括管理しチャンネル編成なども担う事業会社「マルチプレックスジャパン」(MPXJ)の設立に携わり、オリジナルの動画番組を放送するなど積極だったが、VHF帯割り当てが不確実なことなどを理由にMPXJ設立が白紙になり、2008年4月には放送も休止するなど、現段階でデジタルラジオについて目立った動きを見せていない。本放送開始まで、もう少し紆余(うよ)曲折がありそうな気配だ。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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