複合機よりワンランク上の画質とA4を超えるサイズの印刷環境が手に入るA3ノビ対応インクジェットプリンタは、デジタル一眼レフカメラや上位クラスのコンパクトデジタルカメラを持っているならば、ぜひチェックしてほしい周辺機器だ。
写真印刷に最適な5モデルのA3ノビ対応インクジェットプリンタを横並びで比較・検証する特集の第4回は、製品を選ぶうえで最も重視すべき「画質」にスポットを当てる。
本特集で取り上げる5モデルは8〜10個の多色インクを採用しているが、カートリッジの構成や発色の傾向、プリンタドライバの内容は製品もしくはメーカーによって異なる。これらの違いが印刷結果にどのような違いをもたらすのかに注目してほしい。
本特集で取り上げるA3ノビ対応インクジェットプリンタ | |||||||
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製品名 | メーカー | 実売価格 | インク種別 | インク数 | 最小インク滴 | 最大解像度 | |
PX-5600 | エプソン | 8万8000円前後 | 顔料系 | 9個(フォトブラック/マットブラック交換式、グレー、ライトグレー、シアン、ライトシアン、ビビッドマゼンタ、ビビッドライトマゼンタ、イエロー) | 3ピコリットル | 5760×1440dpi | |
PX-G5300 | エプソン | 5万8000円前後 | 顔料系 | 8個(フォトブラック、マットブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、オレンジ、グロスオプティマイザ) | 1.5ピコリットル | 5760×1440dpi | |
PIXUS Pro9500 | キヤノン | 7万5000円前後 | 顔料系 | 10個(フォトブラック、マットブラック、グレー、シアン、フォトシアン、マゼンタ、フォトマゼンタ、イエロー、グリーン、レッド) | 3ピコリットル | 4800×2400dpi | |
PIXUS Pro9000 | キヤノン | 5万4000円前後 | 染料系 | 8個(ブラック、シアン、フォトシアン、マゼンタ、フォトマゼンタ、イエロー、グリーン、レッド) | 2ピコリットル | 4800×2400dpi | |
HP Photosmart Pro B9180 Printer | 日本ヒューレット・パッカード | 7万円前後 | 顔料系 | 8個(フォトブラック、マットブラック、ライトグレー、シアン、ライトシアン、マゼンタ、ライトマゼンタ、イエロー) | 4ピコ/6ピコリットル | 4800×1200dpi | |
ここでは、「モノクロ風景」「カラー風景1」「カラー風景2」「カラー人物」「カラー静物/グラデーション/カラーパッチ」の5枚の写真データを用意し、Windows版のAdobe Photoshopからプリンタドライバの最高品質設定で印刷した写真を見比べた。それぞれの画像データはAdobe RGBのプロファイルが埋め込まれている。使用した写真用紙は、PX-5600とPX-G5300が「写真用紙クリスピア<高光沢>」、Pro9500は「キヤノン写真用紙・絹目調」、Pro9000は「キヤノン写真用紙・光沢プロフェッショナル」、B9180は「アドバンスフォト用紙」だ。
プリンタドライバのカラー設定は印刷結果に大きな影響を与えるため、ここではデフォルト(プリンタドライバおまかせの色補正)の場合に加えて、プリンタ側でICCプロファイルによるカラーマネジメントを行う場合の2パターンを試した。また、モノクロ印刷については特殊な印刷モードを持つ製品もあるので、その違いもチェックしている。
以下は印刷サンプル(実際の印刷サイズは約120×80ミリ)をスキャンした画像データの縮小表示だ。スキャンした時点で、色の表現方法がCMYKからRGBに変わるうえ、ディスプレイやソフトウェアの環境で見え方が大きく変わってしまう。色再現性は正確さを欠くため、画質の特徴の違いを把握するための参考であり、評価は本文を確認してほしい。また、元画像と比較して、発色が悪く、シャープネスが甘く見えるのも印刷した写真をスキャンした影響によるもので、実際の印刷サンプルは鮮やかで細部がよりはっきりしている。実際の画質は店頭で実物を見て判断してほしい。
ちなみに、掲載した印刷サンプルはAdobe RGBの色域を正しく扱えるアプリケーションとディスプレイで表示すると、最も色再現性が高まるようにスキャンしてある。OSとWebブラウザについては、Windows Vista Ultimate(SP1)環境とFirefox 3、Mac OS X 10.5環境とSafari 3.2の組み合わせ、フォトレタッチソフトはAdobe Photoshop CS4、液晶ディスプレイは日本ヒューレット・パッカードの「HP DreamColor LP2480zx」で各サンプルの色を確認した。
エプソンが2002年に発売して金字塔を打ち立てた「PM-4000PX」以来、このクラスのインクジェットプリンタではモノクロの出力品位も求められるようになった。ここでは、ドライバの自動補正、ICCプロファイルを用いた設定、そして各機に用意されたモノクロ印刷向けの設定で、出力結果を比較してみた。サンプルは一般的な風景写真で、青空と雲、大地、建物のコントラストや階調表現、質感の違い、グレーの色かぶりを見てほしい。
最初にPM-4000PXの血脈を受け継ぐPX-5600だが、「モノクロ写真」「グレースケール」の設定ともに十分な性能だ。グレースケールの設定はニュートラルすぎて、モノクロ写真としての面白みに欠けるが、そういうモードなのだから文句はない。これをうまく補っているのがモノクロ写真の設定で、わずかに色を乗せるとともに、ハイライト、シャドーの調子をしっかりと再現している。このことは雲や左下の土を見るとよく分かる。その黒の色調やトーンの調子をドライバで手軽に変更できる点も大きな魅力といえる。
だが、同じくエプソンのPX-G5300はグレーインクを搭載せず、ドライバには「モノクロ写真」モードがないことから、いずれもグレーが派手に転んでしまった。やはり、PX-G5300はモノクロ印刷向きとはいいがたい。
キヤノンのPro9500も出力品質に不満がない。個人的には「モノクロ印刷」モードの出力は最も嗜好(しこう)に近い。かなりあっさりとしているものの、ハードの特性に合わせて後から補正を足すのは比較的楽だが、引くのは意外に難しいためだ。ドライバ標準設定では、モノクロ印刷モードよりも青みがかっているが、この程度ならば許容範囲だろう。青みは絹目調用紙の白色の影響もあるだろうから、気になるならば、ほかのメディアを試すという手もある(9500Proは光沢紙向けではないが)。
Pro9000については、ドライバ標準設定では派手に色が転んでしまった。フォトレタッチやドライバの調整で吸収できるレベルではないので、素直にモノクロ印刷モードを使用するのが賢明だ。グレーインクがないため、調子が硬くなりすぎるのがネックだが、黒調はドライバ標準設定とは比べ物にならないレベルにまで向上する。
B9180のグレーインクは悪くないが、こちらも調子が硬すぎるのが残念なところ。アンダーめの多いデータではシャドーがかなりつぶれてしまうので、なかなか扱いが難しい。やや色は転ぶが、コンポジットグレーのほうが応用は利くように思える。
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