今回紹介するアプリはFingerPiano。App Storeで350円でダウンロード可能だ。このアプリは、文字どおりiPhoneをピアノに変えてしまうアプリなのだが、ピアノが弾けない人でもスコアアシスト機能できちんと音楽を奏でることができる、誰でもピアノ演奏の楽しさが味わえるアプリである。
ソフトバンクモバイルのテレビCMで、“お父さん”がiPhone 3Gを手に入れ、星空に思いをはせながらiPhoneのピアノアプリで『愛の賛歌』を演奏していた映像は記憶に新しい。
僕がその映像を見てとっさにTwitterで「犬の肉球でもiPhoneは反応するの?」と問いかけてみたところ、複数の人から「反応する」「猫でもOK」「触って音が出るとびっくりして逃げる」などとお返事を頂いた。Twitterのリアルタイムな反応に驚いたのもさることながら、ふと思った。「みんなやってみたんだな」と。
FingerPianoで曲を選ぶと、鍵盤が手前に表示され、画面の奥から「ビートマニア」のように、つまりどのタイミングでどこの鍵盤を押せば正しい音が鳴るか、という楽譜が流れてくる仕組みになっている。バーの鍵盤を押せば次の箇所に移動し、もし鍵盤が画面の外に動くときは自動的に鍵盤がスクロールしてくれる仕組みだ。
始めのうちはステップ・バイ・ステップで、正しい鍵盤を押したら次の音へ行く、という手順で曲を覚えられる。慣れてきたり、いざ本番というときには自動的に楽譜が流れてくるよう再生ボタンを押し、テンポに沿って演奏することができる。
楽譜は右手用と左手用が用意されているので、同時に楽譜のスクロールを再生すれば、2台のiPhoneでぴったり息のあった連弾を楽しむこともできたりする。とにかく、楽譜が読めなくてもどこを押せば演奏できるか分かるし、鍵盤のスクロールもインテリジェント。誰でもピアノの練習ができるアプリがFingerPianoなのである。
さて、ピアノに限らず、iPhone用の楽器アプリは有料のものから無料のものまで、本当にたくさんの種類が出てきている。この連載でもご紹介したPocket Guitarをはじめ、マイクに息を吹きかけて演奏するオカリナ、PaklSoundやPASY02などの電子楽器系、そして琴のような日本の楽器に至るまで、そのラインアップはさまざまだ。楽器のシミュレーションなので、どれも簡単に演奏できると思いきや、ギターアプリは実際にギターが弾けないと演奏なんてできないし、琴やオカリナも練習が必要だ。
そう、iPhoneアプリになっても、楽器で音楽を演奏するには練習が必要なのである。しかしこのFingerPianoを作ったJYProductの和田純平氏は、とにかくピアノを弾きたかった。結婚式で一生連れ添う妻への愛を奏でるためである。
ところが和田氏は、楽器ができず楽譜も読めなかった。そこで、MIDIで次に弾くべき鍵盤の位置を示すアプリを制作し、誕生したのがWindows版FingerPianoだった。このおかげで、結婚式では無事にピアノが弾けたのだという。
「楽譜が読めないからピアノが弾けない。こういう人は絶対たくさんいる。これを世に出さなければ! というわけでフリーソフトとしてWindows版FingerPianoをリリースしました。ところが、全然ダウンロードされませんでした。認知が進まなかったのと、MIDIキーボードやPC、(鍵盤を表示するための)でかいディスプレイが必要という条件は致命的でした」(和田氏)
そこで出会ったのがiPhoneである。
「iPhoneならタッチでピアノが弾けるし、画面が小さいのはスライドすれば解決する。スピーカーがついているから音も出せる。そして何よりApp Storeによって、僕がFingerPianoを届けたい人に届けられます」(和田氏)
iPhoneというデバイスの特性とApp Storeによるアプリ流通は、和田氏の思いをカタチにして伝えることに成功した。FingerPianoで演奏するたびに、温かい気持ちになってくる。そんなストーリーを持つピアノアプリに、ぜひ触れてみてほしい。
東京、渋谷に生まれ、現在も東京で生活をしているジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ(クラブ、MC)。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。1997年頃より、コンピュータがある生活、ネットワーク、メディアなどを含む情報技術に興味を持つ。これらを研究するため、慶應義塾大学環境情報学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。大学・大学院時代から通じて、小檜山賢二研究室にて、ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性について追求している。
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