6月12日、米国の地上波テレビ放送がデジタルに完全移行した。そしてここ日本でも、2年後の2011年7月24日に「地デジ完全移行」が実施される。米国の状況を参照しながら、日本の地デジ移行状況について考えてみよう。
テレビ放送のアナログからデジタルへの移行は、各国において国策に近い形で進められている。その理由はいくつかあるが、代表的なものを2つ挙げてみよう。
1つは放送サービスの高度化。デジタル化によりいくつかの電波帯域(セグメント)が1つのチャンネルを構成することで複数番組の同時放送が可能になり、電子番組表(EPG)が標準対応されるなど、大幅な機能向上が見込まれる。双方向通信の実現も、その理由に含まれるだろう。
電波の有効利用も大きな理由だ。日本の場合、地デジへの完全移行により、現在利用されているアナログ/デジタル用の帯域(370MHz)が240MHzへと、約35%圧縮される。空いた帯域は新たな放送サービスや携帯電話通信網の拡充、高度道路交通システム(ITS)などにあてられる予定だ。
テレビには情報化社会における生活必需品としての役割もある。この6月に完全移行を宣言した米国だが、当初の予定日は2月17日。直前の1月下旬から4カ月延期した理由のひとつとしては、高齢者や低所得者など2000万ともいわれる世帯が、地上デジタル対応の機器を導入していなかったことが挙げられている。
しかし、仕切り直し後の6月までに状況は一変。調査会社ニールセンの報告によれば、6月7日時点で米国における地上デジタル対応機器未導入世帯は、全体の約2.5%にあたる280万世帯と、2月調査時の5.1%から大幅に改善されている。混乱も危ぐされたが、実際には関係当局やテレビ局に寄せられる相談件数が増えた程度で、大きな混乱は見られないという(→米国が地デジ移行 「大きな混乱はなし」)。
日本では、2009年3月時点における地上デジタル対応機器普及率は約60%(総務省「地上デジタルテレビ放送に冠する浸透度調査の結果」 リンク先PDF)。約2年後に完全移行を迎えるにしては頼りない数値に思えるが、同資料によれば、「アナログ放送停波」については97.7%、「停波時期」についても89.6%がそれぞれ認知しており、まずまずの数値を達成している。
この普及率と認知度のギャップは、「直前までアナログ機器を使う層」の意思表明とも解釈できる。個人的な例で恐縮だが、筆者の老親は2011年になった時点で構わない、まだ動くものをもったいない、とかたくなにアナログテレビを使い続けている。米国にも同様の層が存在し確信を持って完全移行直前に買い換えたと考えれば、購入補助など低所得者向けの支援策は別途必要だとしても、あと約2年という猶予期間がある日本はもう少し楽観的で構わないのかもしれない。
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