クリプトンは、同社の高音質音楽データ配信サイト「HQM STORE」において、新シリーズ「HQM GREEN」を3月から販売すると発表した。CD向けに録音されたマスター音源を24bit/88.2kHzもしくは24bit/176.4kHzに拡張した高音質データだ。第1弾として、3月初旬にクラシックの10アルバムを発売する。価格は60分程度のアルバムで2200円(税抜き)。
音源を提供するカメラータ・トウキョウの中野浩明社長によると、1980〜1990年代にCD向けとして収録された演奏の多くは、設備の都合などでCD規格と同じ16bit/44.1kHzのマスターしか残っていないという。このため、日本ビクターのK2プロセッシング技術をもとに、同技術の開発者である桑岡俊治氏(現在はクリプトンの技術開発室室長)が長年のノウハウを加えたEXTENDED SOUND技術を開発。コンテンツの信号フォーマットに応じてビット拡張と周波数帯域拡張を行い、オリジナルが持つ微妙なニュアンスまでも再現するという。
桑岡氏は、「CDの分解能においては、微小信号になるほど量子化ステップ数が少なくなり、量子化ひずみが目立ってくる。また周波数帯域においても、サンプリング周波数の2分の1(22.05kHz)以上の高周波成分がカットされ、音質が劣化している」と指摘する。しかし、CDのように既にデジタル化された信号を、一般的なオーパーサンプリング方式で拡張しても信号そのものの特性は変わらないという。
一方、K2プロセッシングではビット拡張の際に入力されたデジタル信号からAD変換前のアナログ信号を想定し、新たに生成するハイビット(24bit)デジタル信号と元のデジタル信号の音楽エネルギーが等価になるよう再量子化を行う。また周波数帯域の拡張においても、帯域制限される前のアナログ信号を想定し、これをハイサンプリングで再標本化する。そして、“想定”の部分が大きなポイント。「周波数のどの位置がどう劣化するか。係数にまとめてテーブル化している。もとのK2プロセッシングとの違いは、長年培ってきたノウハウをもとに係数を設定し直したこと。処理自体は基本的に同じ」(同氏)。
実際に同じCDから単にリッピングされたものとEXTENDED SOUND処理後のデータを聞き比べると、オーケストラを構成する各楽器の音が明瞭(めいりょう)になっていることが分かる。音の広がり方も自然で、CDではきつく感じるような演奏も自然に感じられる。「むやみに高周波を付け足すのではなく、波形を自然に整える“整波”」の効果だろう。当時、実際に収録を担当したプロデューサーであるカメラータ・トウキョウの井阪紘会長は、「意図した音になった」と評価したという。
HQM GREENを企画したクリプトンの濱田正久社長は、「これでCDの名曲、名演奏に再び光をあてることができる」と話す。GREENシリーズは、3月にクラシックの10タイトルで配信を開始するが、1年後には100タイトルまで増やす方針。また、ジャズの名演奏についてもラインアップを検討していくという。
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