8月1日、ITmediaスマートテレビ研究所主催のシンポジウムに登壇し、日本的なスマートテレビという持論を語ってくれたAV評論家・麻倉怜士氏。年初の「2011 International CES」以降、海外メーカーを含め各社の動きが激しくなっている“スマートテレビ”だが、日本では“アナログ停波後”のテレビ像としても注目を集めている。シンポジウムでは語りきれなかった部分を含め、日本的スマートテレビとは何かを詳しく聞いていこう。
――まずおさらいになりますが、従来のIP TVやインターネットテレビと「スマートテレビ」の違いはどこにあると考えていますか?
麻倉氏:ご存じの通り、最近はインターネット接続で動画コンテンツを楽しむスタイルが一般化しています。以前は電波を媒介とした放送だけがテレビの楽しみ方でしたが、「Netflix」に代表されるネット配信サービスなどが多く登場しています。しかし、多くのサービスやコンテンツの中から、見たいものを探すのは大変です。そこで、1つには「検索」が重要になっています。
もう1つ、昨年の後半以降、スマートフォンの操作性や機能性をテレビに取り込もうとする動きが顕在化してきました。もともと“スマートテレビ”という言い方自体がスマートフォンからとったものですから当然かもしれませんが、スマートフォンを使ってテレビを楽しむ方法が検討されています。
スマートフォンによってテレビの操作性は大きく変わります。1月のCESでは、シャープとパナソニックが見せましたが、タッチした画像をテレビに映し出すなど、モバイル端末とテレビのインタフェースをスマートにして有機的につなげるという考え方です。米国では“ダブルスクリーン”や“マルチスクリーン”といった言葉で論じられていますが、国内市場への投入ではシャープの「AQUOS L5」シリーズが先駆けになりました。
さらにコミュニケーション機能も重要でしょう。音声やメール、SNSなどの機能がテレビに入っていきます。その機能を持つのがテレビなのか、あるいは手元のスマートフォンなのかは、メーカーによって選択が分かれることになりそうですが、これらの機能をアプリケーションの形で提供し、ダウンロードすることで機能を進化させるという点は重要でしょう。スマートフォンが人気を集めた大きな理由でもありますが、ゲームや情報関連のアプリを持ち込み、テレビが進化していくというアプローチですね。
このあたりが現在考えられているスマートテレビで、LG電子やサムスンといった海外メーカーは、いくつかの提案を盛り込んだ製品を発売して好調に推移していると言っています。一方、日本のメーカーも研究を重ねていますが、製品化については助走段階といったところでしょう。これから本当の意味でのスマートテレビが登場すると思いますが、普及するかどうかは、「いかに使いやすく、ユーザーのニーズに応えてくれるか」が重要なポイントになると思います。考えなくてはならないことは、たくさんあります。
麻倉氏:シンポジウムで本田雅一さんが指摘していましたが、テレビにブラウザを載せただけのアプローチは成功した試しがありません。これには根本的な問題が2つあります。
そもそもテレビは、仕事中のPCと違い、気合いを入れて見るものではありません。「カウチポテト」という言葉があるように、ソファーに深く腰を下ろして気楽に楽しむものです。この連載でも1月に取り上げていますが、PCで知的な作業を行うときにはリーン・フォワード(前傾姿勢)で、テレビはリーン・バック(後傾姿勢)です。とくに大画面テレビは離れてみるもので、例えば50インチの画面なら2.5メートルが適正な視聴距離になりますし、リモコンも片手で扱うのが一般的でしょう。
しかし、ブラウザやSNSを利用するときは明らかにリーン・フォワードなので、少なくとも大画面テレビには合いません。そもそもファミリー層向けの大画面テレビは複数名で見ることが前提ですから、個人的にスマートフォン的な使い方ができるのかは疑問です。ただでさえ“チャンネル争い”があるのに、子どもがアニメを見たがっているときにお父さんが野球中継を見ながら仲間とチャットできるでしょうか? 絶対に無理ですよね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR