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日本流スマートテレビは“執事”を目指せ麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/4 ページ)

» 2011年08月22日 18時23分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 実は、10年ほど前に某メーカーと共同で「ネットテレビ研究会」というものをやっていました。その最後の発表会で「テレビコンシェルジュ」という概念を提案したのです。しかし、当時はインターネット回線が細く、環境が整っていませんでした。その後、PTPの「SPIDER」が出てきて“全録”や“タギング”が可能になりましたが、今ではもうクラウドの中にそういったサービスが入っています。ある番組をどれだけの人が録画予約したか、あるいは個々のユーザーが今までどんな番組を見てきたか、そういった履歴が分かります。これを利用しない手はありません。

麻倉邸のPTP「SPIDER ZERO」

 またNHK放送技術研究所では、テレビにカメラを付け、ユーザーがテレビを視聴している様子を撮影・解析して集中度を測るといった研究をしています。これを応用すれば、ユーザーがどのような番組を好むかを分析し、条件に合った映像を収集するといった機能も夢ではありません。単純に放送局のおすすめコンテンツを紹介するのではなく、個々のユーザーのためにしっかりと取捨選択したコンテンツを見せてくれる。やはり執事っぽいですよね。

 もう一つは、シンポジウムでも話したスマートな画質調整でしょう。ある映像コンテンツを楽しむことき、その内容に合わせて画質を調整してくれる機能です。ここにはユーザーの好みも取り入れ、さらに周囲の明るさや照明器具の種類といった要素も踏まえて画質を自動設定してくれるのです。もともと東芝が発想していましたが、今これに近いのはシャープ製品ですね。現行のAQUOSには、初期設定時に3つの画像を表示して、好みの画像を選んでいくとコントラストや色温度を設定してくれる仕組みがあります。結局、一番良い画を見せてくれるテレビが一番スマートなんです。

 後はスマートフォンとの連携も重要になると思います。ただ、忘れてはいけないのが、単にスマートフォンの機能を移植しただけではダメ、ということ。テレビなりの機能や役割をスマートにこなるテクノロジーやサービスが求められると思います。そのことはGoogle TVの現状が雄弁に物語っています。今年の秋以降、各社から登場する「スマートなテレビ」に期待しましょう。

――ネット動画といえば、民放5局による「民放VOD」が発表されました。見逃し視聴が可能になるという点で注目されると思いますが、いかがでしょう

麻倉氏:見逃し視聴について民放がようやく本腰を入れるという印象ですね。これまでPC向けには少しずつ展開していましたが、それをテレビの中に取り込んでいく姿勢を明確にしたのは前進だと思います。また、新しいユーザーインタフェースにも注目したいです。従来の動画配信サービスは、ポータルから入ってもなかなか目的のコンテンツに行き着かない点が問題でした。しかし今回は番組を入り口にして発展が期待できるでしょう。

 問題はビジネスモデルですね。有料化するなら、よほど面白い番組でなければなりませんし、今回は入り口を分かりやすくしただけで、民放の新しいビジネスモデルとしては少し“夢”が足りないと思います。

 例えば、NHK技研で公開されたハイブリッドキャストは、番組を補完する映像を通信で届けます。野球中継のマルチアングル化、あるいは3D放送で片側の映像を通信で届けることにしてフルハイビジョン解像度にしたり……。民放VODも関連動画だけではつまらないでしょう。やはり番組自体の魅力を高めていくことを考えてほしいと思います。

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