ソニーのカナル型イヤフォンは、これまでダイナミック型ドライバーのみのラインアップとなっていたが、今回新たにBA(バランスドアーマチュア)ドライバーを搭載したカナル型イヤフォン「XBA」シリーズが登場した。しかも、ドライバー数が1基のものから4基のものまで、ノイズキャンセリングやワイヤレスタイプ、iPhone/iPod用リモコン付バリエーションを用意するなど、合計11モデル!という充実ぶりだ。その力の入れようは、かなりのものだということが分かる。
今回は1ドライバー搭載モデル「XBA-1IP」を借用し、1週間ほど聴き込むことができた。ただ、今回のタイにおける大規模洪水被害の影響により、新BAドライバーシリーズの出荷開始予定が、当初の1カ月遅れ、11月21日(「XBA-3IP/4IP」などは発売日未定)へ変更された(→関連記事)。いち早く手に入れたいユーザーには残念なかぎりだろうが、それまではこの記事などを参考にしつつ、今しばらく“選ぶ楽しみ”を満喫していてほしい。
この「XBA」シリーズは、その名からも分かるとおり、迫力の重低音が魅力となっている「XB」シリーズのアドバンスモデルに位置づけされている製品だ。なかでも「XBA-1IP」は、11モデルという幅広いラインアップ中、最もスタンダードな1ドライバー搭載機「XBA-1SL」に、iPod/iPhone用リモコンが付属したバリエーションモデルである。
「XBA」シリーズ最大の特長は、なんといっても新開発のBAドライバーだろう。一般的にBAドライバーは、解像度が高くクリアなサウンドがメリットとなる代わり、再生周波数帯域の幅が狭い傾向にあり、数基のドライバーを併用しないと音楽的バランスがとりづらいことがままあった。しかしこの新BAドライバーでは、従来の本体側面に配置されたパイプ形状のエアーダクト構造ではなく、本体上面にフラット形状のエアーダクト構造を採用。これによって再生周波数帯域が拡大、BAドライバー1基でも伸びのある整ったサウンドを実現したという。
また今回の幅広いラインアップをフォローするために、BAドライバーはフルレンジタイプのほか、ウーファータイプ、スーパーウーファータイプ、ツイータータイプと得意とする再生周波数が異なる4バリエーションが作られた。そのうち「XBA-1IP」(もちろん「XBA-1SL」も)に搭載されているのはフルレンジタイプ。ちなみに2ドライバーの「XBA-2SL」はフルレンジ+ウーファー、3ドライバーの「XBA-3SL」はフルレンジ+ウーファー+ツイーター、4ドライバーの「XBA-2SL」はフルレンジ+ウーファー+スーパーウーファー+ツイーターという組み合わせとなっている。
「XBA-1IP」の外観は、ブラックメッキとシルバーメッキのツートーンカラーでまとめられていて、上品なイメージが漂う。1ドライバーであるため、ボディーは細めで小さく、軽い。おかげで装着感はかなり良好だ。
またイヤーチップは、2種類の硬度のシリコンを組み合わせた「ハイブリッドイヤーピース」とシリコンの内側に低反撥(ていはんぱつ)ウレタンフォームを入れた「ノイズアイソレーションイヤーピース」の両方が付属。サイズも幅広く用意されているため、多くの人がベストなタイプにめぐり合えるはずだ。いっぽうiPod/iPhone用リモコンは3ボタン式。比較的小柄のためストロークはほとんどないが、決して使いにくくはない。
さて、肝心のサウンドはというと、新開発BAの実力を確認できる、1ドライバーとは思えない帯域幅を持ち合わせている。さらに音の鮮度が高く、ダイレクト感の高いサウンドを楽しませてくれる点も好印象だ。とくに500Hz〜5kHzあたりの特性がとてもよいのだろう、男性ボーカルも女性ボーカルも口元がはっきりとしていて、歌い方の細やかなニュアンスまで如実に伝わってくるため、声にリアリティーがある。
一方で、メインギターのソロやチョーキングなどの演奏もなかなか聴きごたえがあった。余計な付帯音のない鋭い突き抜け感があって、それでいて線は細くならない。絶妙なバランスだ。ドラムのフロアタムや、ベースの響きもなかなか。そういった傾向から、とくにハードロックやヒップホップは、かなり気持ちよいサウンドが楽しめるだろう。唯一、クラシック、とくにピアノ曲はあまり得意ではないかもしれない印象を持ったが、ジャズやボーカルものなども含め、苦手ジャンルは少ないほうだといえるだろう。
重箱の隅をつつくように細部までチェックすると、高域への伸びにちょっとしたクセがあったり、低域の量感や解像度には限界が見られたり、空間表現にそれほどの広がりがなかったりと、随所である程度の割り切りを感じるが、これは1ドライバー搭載機としては当然のことだし、逆に「XBA-1IP」はかなり優秀なほうだといえるだろう。初のBAドライバー設計とは思えない、完成度の高さだ。
価格的に見ても、なかなか魅力的な製品だといえる。今回試聴の叶わなかった複数ドライバー搭載モデルが、果たしてどのような仕上がりを見せてくれるのか、いまからとても楽しみだ。
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