10月4日から8日に開催された「CEATEC JAPAN 2011」は、5日間でのべ17万2137人が来場して盛況のうちに幕を下ろした。東芝「55X3」やソニー「VPL-VW1000ES」など4K×2K対応機がお披露目され、各社の試聴ブースには連日大行列ができる盛況ぶり。4Kのスタートを強烈に印象付けた。しかし、ネイティブコンテンツのない現状では、各社が持つアップコンバート技術が普及の鍵となる。各社の展示をつぶさに見てきたAV評論家の麻倉怜士氏は、その進化をどうみているのか。詳しく聞いていこう。
――まず今年の「CEATEC JAPAN 2011」を振り返っていかがでしたか?
麻倉氏: 昨年は“3D CEATEC”という形容ができましたが、今年はまさに“4K CEATEC”でしたね。東芝はIFAで発表した「55LZ2」の日本版といえる「55X3」を発表し、ソニーは米国の「CEDIA EXPO 2011」でお披露目した「VPL-VW1000ES」を国内でもリリースしました。また、シャープが2012年の発売を予定している「ICC 4K 液晶テレビ」を参考展示して、いずれの展示も人気が高かったようです。例えばソニーのシアターはいつも120分待ちでしたね。
私としては、リアル解像度の4Kディスプレイやプロジェクターが出たという点が印象的でしたが、さらに各社が先進的なアップコンバート技術を持ってきた点も重要だと考えています。これまでのアップコンバート技術では、解像度だけ上がっても画質そのものは下がってしまうのが常識でしたが、今回のように画質の上がるアップコンバート技術が登場したことは、4Kの将来にも大きな意味を持つと思います。
――現行のハイビジョンコンテンツでも4Kが生きるということでしょうか
麻倉氏: もし、Blu-ray Discを見たときの感動が4倍になれば、それは十分な商品価値を持つと思います。
CEATEC JAPANでは、私が4Kに対して抱いていた2つの疑問、「2Kから4Kにアップコンバートすると画質はどうなるのか?」「リアル4K解像度のコンテンツではどうか?」という点について回答を得ることができたと思います。
まずリアル4Kコンテンツは、ソニーと東芝のシアターで見ることができました。これは本当にすばらしい。ICCを開発した近藤哲二郎さんの理論を借りるなら、走査線の数が1ミリの間に3本ある高精細テレビを2H(画面の高さの2倍)の距離で見ると、そこにはテレビの存在を感じさせないほど現実感のあるものが浮かび上がるそうです。東芝ブースで見た映像がまさにそう。女性の肌や木々、波の砕け方など、フルハイビジョンではおなじみの絵柄でしたが、そこから“生のエネルギー”のようなものが伝わってきましたね。
同じく東芝ブースにあったNTTぷららの4K配信の展示も面白いと思いました。これまで4Kというと精細さをアピールするために絵画のようなスタティック(静的)なコンテンツが多かったと思いますが、今回の展示はごく一般的な旅グルメ番組という内容で、しかも外でロケしたものでした。普段、テレビでよく見る構図や登場人物を、4Kで撮影するとどうなるか。これまでと異なっていたのは、光が加わってまるで別世界のように感じられること。リポーターの女の子の肌色もフルHDでは見られないような映像でした。旅番組のような普通のコンテンツに対しても4Kは意外な効果を発揮するのではないか? と感じさせ、リアル4Kのコンテンツが是非ほしいと思いました。
一方、アップコンバートの画質についても期待が持てると思いました。例えばソニーのシアターでは、「ツーリスト」のトレーラーをアップコンバートで見せてもらいましたが、従来のアップコンバートにあるような不自然さはなく、4Kの解像度に溶け込んでいました。
そして驚いたのは「スパイダーマン」。従来の2Kでは“スクリーンに画がある”印象ですが、4Kではスクリーンの存在を感じさせず、その場に画が浮かび上がるようでした。例えば、良いスピーカーで音楽を聴くと、まるでそこに楽器があるように感じることがありますが、それに通じるリアリティーでした。これは、すごい世界がくると思いますよ。
――フルHD解像度のBlu-ray Discでも、感動を4倍以上にしてくれるでしょうか?
麻倉氏: NHK技研のSHV(スーパーハイビジョン、8K×4K)など、理論的な実験を重ねて極めて没入感の高い映像を作り出したものも、これまでに何度も体験してきました。その尺度をもってみても、4Kの進歩のあり方は、4倍以上の価値があるのではないかと思います。従来とは違う、新しい感動があると痛感しました。また、SHVがいくら美しくても、まだ10年先の話と聞けば、われわれは「欲しい」と思わないわけです。しかし4Kの製品はすぐに手の届くところにやってきます。
CEATECの会場で米DisplaySearchの創業者、松野智吏社長にお会いする機会がありました。松野さんは、以前紹介した「透明ディスプレイ理論」で、将来のテレビはハードウェアの存在を消すほど高精細にならなければならないと言っています。それをメーカーに訴求しているのですが、「4Kの世界がやってきて、現実味を持って受け取られるようになった」と話していました。
――シャープブースの「ICC 4K 液晶テレビ」はいかがでしたか?
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