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洗練された3Dプロジェクター、注目モデルを一気レビュー麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(5/6 ページ)

» 2011年11月24日 18時02分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

3Dコンテンツ制作技術も進歩している

麻倉氏:3Dコンテンツで良くないのは、奥行きはあっても1つ1つのオブジェクト(登場人物など画面に登場する物体全般)が平面的に見えてしまうことです。いわゆる書き割り現象です。逆にそれぞれの物体が立体感を持つと、アニメであってもリアリティーを感じます。

 そのことに最初に気付いたのは、21世紀フォックスの「アイスエイジ」を見たときでした。マンモスの鼻やキバがしっかりと丸く描かれ、画面には奥行きもあります。画面に登場するものすべてが立体でした。

 3Dの魅力は、この「三重立体構造」にあります。つまり微視から巨視まで立体ということです。1.)奥行きはもちろん必要です。加えて、2.)対象物が立体であり、しかも3.)その細部も立体……であるのが、3Dの醍醐味なのです。

「塔の上のラプンツェル 3Dスーパー・セット」は6090円で販売中。本編約101分。(c)Disney

 ディズニーのBlu-ray 3D「塔の上のラプンツェル」はその意味からして、3Dの最高傑作です。ありとあらゆるシーンに微細な立体感が付いており、とくにチャプター8のランタンが手前に出てくるシーンなどは、思わず手をのばして触りたくなるほどの3D効果を持っています。

 その3D設計を手がけたディズニーの3Dスーパーバイザー、ロバート・ニューマンさんが、10月にお台場の科学未来館で開催された「国際3D Fair 2010 in TOKYO」で講演を行い、秘密を明かしてくれました。

 ニューマンさんによると、立体コンテンツに登場する物体は、円形係数が30%を超えないと“書き割り”(舞台で使われる建物や風景が描かれた背景ボードのこと)に見えてしまうそうです。これが60%になると、見る人は高いリアリティーを感じる。

 ディズニーは「塔の上のラプンツェル」の制作にあたり、「マルチリグ」という手法を考えました。リグというのは、立体撮影を行う際に2つのカメラに角度をつける装置のことで、CGアニメの場合は仮想的なカメラを置くための設定を指します。

 これまでリグは1つの画面に1つが普通でしたが、それでは前景だけは立体的に見えても背景が“書き割り”になる可能性が高い。対してマルチリグでは前景のリグ、中景のリグ、後景のリグと位置によって複数のリグを作り、それぞれのオブジェクトに適切な立体感をつけます。そして違和感がないようにシーンごとに細かい修正を加えていきます。手間や時間は従来の何倍にもなったはずですが、良い芸術を作っていくという心構えがあったからこそできたのだと思います。

 ニューマンさんは、「3Dはストーリーを物語るためのものであり、単なる効果ではない。感情をかき立てるものだ」と話していました。大変感動しましたね。3Dコンテンツは、まだまだ発展途上で、新しい手法を考え出す余地も大きいと思います。

 ハードウェアを生かすも殺すもソフトウェア次第です。ハードウェアにイノベーションがあり、そしてコンテンツでもエモーショナルな革新が同時に起こりました。これは3Dの将来にとって大きなプラスになるでしょう。

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