AV評論家・麻倉怜士氏が個人的に使って良かったもの、欲しいと思ったものを紹介する今月のデジタル閻魔帳。先週の「AV&デジカメ編」に続き、今回はオーディオ機器を中心に取り上げていこう。
麻倉氏: 最初に紹介するのは、パナソニックのハイレゾ対応ミニコンポ「SC-PMX9」です。最初は「ハイレゾ音源をミニコンで聞いてどうするんだ」と思ったのですが、実際の音を聴くとかなり良い。感心したのでパナソニックに取材してみたところ、とても頑張ったものであることが分かりました。
SC-PMX9は「LincsD-Amp」というフルデジタルアンプを採用しています。フルデジタルアンプは、デジタル音源をA/D→D/A変換せずに増幅するため音質面で有利。ただ、そのときに課題となるのがジッターです。とくに入力信号のクロックをPWM(パルス幅変調)のクロック(384kHz)に変換する際、ジッターが生じる可能性があります。
麻倉氏: そこでSC-PMX9では、独自のノイズシェーピング技術を応用した「クロック再生成技術」でジッターを抑えているのですが、この技術というのが、1980年代後半から1990年代にかけてTechnics(テクニクス)ブランドのCDプレーヤーに採用されていた「MASH」(Multi-stAge Noise SHaping)で培った技術だそうです。懐かしいですね。
付属のスピーカーもユニーク。普通に見ると3Wayですが、実は2Way+スーパーツィーター(1.2センチピエゾ型)という構成で、このスーパーツィーターが20kHz以上をカバーしてハイレゾ音源に対応しました。お得意の竹炭を配合したPP(ポリプロピレン)コーンウーファーには、部分的に厚みを変えたリブ構造を持たせて分割振動を抑えています。
開発チームは、以前テクニクスのアンプやスピーカーを担当していた40〜50代のベテランエンジニアが中心だそうです。このほかにも、ひずみ補正のモジュレーターを新規開発したり、電源のコンデンサーにも良いパーツを使ったりと、いわばテクニクスの技術を総動員した印象。従来のミニコンはファッション性がメインだったと思いますが、ここまで中身を良くするアプローチに感心しました。
SC-PMX9の場合、中身がしっかりしているので、例えばスピーカーケーブルや電源ケーブルを変えるだけで音がもの凄く変わります。試しに1本36万円もする「アレグロ」(Allegro)という電源ケーブルを使ってみたところ、すごい情報量が出て、その場にいた人が皆びっくりしました。
まあ、価格が違いすぎるので現実的な組み合わせではありませんが、オヤイデなどからメガネ型変換ケーブルも販売されているので、SC-PMX9を購入した人は試してみてはいかがでしょう。例えばプラス1万円で電源とスピーカーのケーブルを交換するだけで音が随分と良くなります。残念ながらPCのUSB接続はできませんが、SC-PMX9は最近では傑出したミニコンポだと思います。
麻倉氏: 最後に1つ、私からの提案です。この製品はやはり、テクニクスブランドで出すべきです。パナソニックを含め日本の家電メーカーは苦しい状況にありますが、価格競争から脱却して良いものを適正な価格で販売するという方向性を打ち出すためにもブランドは大事でしょう。
例えば、パナソニックは高級なBDプレーヤーをラインアップしていません。私が何度提案してもパナソニックの幹部は笑っているだけなのですが、BDオーディオに向けた最高のプレーヤーをテクニクスブランドで出してみてはどうでしょうか。
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