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レッドブル、4Kテレビに翼をさずける?――「miptv」リポート(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/2 ページ)

» 2014年04月25日 14時33分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 6月2日に試験放送がスタートすることが決まり、注目を集めている“4K”。放送となると潤沢なコンテンツを用意しなけらばならないが、実は4Kコンテンツ制作は日本人の知らない場所でも徐々に進行していた。前編に続き、オーディオ・ビジュアル評論家・麻倉怜士氏が仏カンヌで開催された「miptv」をリポート。

――前編は日本の話題が多かったと思いますが、欧米の動きはありましたか?

麻倉氏: 欧州でも状況は大きく変わっています。欧米諸国は4Kの放送計画を持っていないにも関わらず、プロダクションが積極的に4Kコンテンツを作り始めているのです。

会場には放送関係者向けに最新撮影技術も展示されている。写真は高所撮影を行うためのドローン。伊DAW Commnicationsが出展した

 NexTV-Fの担当者に話を聞いたところ、今回のmiptvでは3つのトピックがあったそうです。1つは放送局やコンテンツアグリゲーターがブースをたずねてきて、前編で取り上げた日本制作の4Kクリップ集を「売ってほしい」と言われること。欧米ではNetflixやAmazonの4Kネット配信を中心に話が進んでいて、それを見越した動きです。

 2つめは、「なぜ4Kと8Kの試験放送をわずか2年しか開けずに実施するのか?」という質問が多かったこと。確かに、もともとNHKが8Kを開発していたことや、日本の成長戦略として政治的な判断を下した背景を知らなければ、普通は疑問に感じますよね。説明は大変だったことでしょう。

 そして3つめは、逆に4K制作コンテンツの売り込みが来たことです。例えばオーストリアのRedBull MEDIA HOUSEというプロダクションは、4Kで16もの作品を売っていました。

――RedBullというと、あの翼をさずける飲料の会社ですか?

麻倉氏: そうです。RedBullといえばエナジードリンクで有名な飲料メーカーですが、2008年に映像プロダクションを設立し、2012年から4K撮影を手がけているます。作品の内容は、自転車やバイク、スケートボード、ボートなど、やはりエナジーが必要なものばかり。スポーツを通じてレッドブルの需要を増やす作戦です。

 RedBullが制作した4K作品は7割以上がインハウス(内部制作)で、現在はそれをテレビメーカーに売り込むなど精力的に動いています。まだコンテンツのない4Kテレビにバンドル(プリインストールや配信)してもらう戦略なのです。

――しかし、なぜ欧州のプロダクションが4K制作に積極的なのでしょう

麻倉氏: IHSという調査会社は、多くのメーカーから4Kカメラが登場し、価格が劇的に下がっていることを理由に挙げています。ソニーやキヤノンのほかにもRedOneで知られるRed、BlackMagic、GoPRO、JVC、HOEI、VisionReseachなど、プロ用カメラメーカー各社が4Kカメラに参入しています。その結果、欧州では少なくとも1台以上の4Kカメラを所有しているスタジオが全体の14%に上るということです。

 コンテンツもレッドブルのような短編から長編大作まで幅広くなっています。例えばSky Itariaは、バチカンにあるシスティーナ礼拝堂の天井画を4K撮影した長編を作成しました。またイギリスのプロダクションが制作した「モナリザの謎」は、1911年にルーブル美術館でモナリザが盗難に遭った後、なぜか別のモナリザが展示されていたという謎を扱った長編作品。劇場公開も考えています。

調査会社のIHSが公開した2K/4K普及見通し(左)。イギリスのプロダクションが制作した「モナリザの謎」(右)

麻倉氏: 面白いのは、フランスのAFP通信です。通信社がニュースを4K撮影するという試みで、今年からNexTV-Fと協力して実験撮影を始めます。まずはクラシック音楽などアーティスティックなニュースから4K撮影を始め、将来的には事件報道まで範囲を広げていく計画です。担当者と話をする機会がありましたが、ニュースはHD撮影もここ3年ほどのことで、「どんどん切り替わっていく過程を経験したため、将来の4Kにも積極的に取り組む」と言っていました。

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