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4K/8Kの先にある放送技術――NHK技研公開麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/4 ページ)

» 2014年06月05日 23時24分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 恒例の「技研公開」で、NHK放送技術研究所の研究成果が今年も一般にも公開された。8Kを中心に展示内容を取り上げた前編に続き、後編ではスマートテレビや“8Kより未来”のテレビ、そしてAV評論家・麻倉怜士氏オススメのユニークな展示を取り上げていこう。

Hybridcastの高度化と将来の8K対応

――まずはHybridcastです

麻倉氏: 昨年は1階ロビーの一番目立つ場所にあったHybridcastですが、今年は地下に場所を移し、やや地味に展示されていました。もっとも、内容は斬新です。まず、IPTVフォーラムで6月に規格化される「Hybridcast 2.0」の内容が展示されていました。

放送外マネージドアプリ対応の試作機

 新しいHybridcastでは、VoD/録画再生への対応、放送外マネージドアプリ、プッシュ型配信技術の3点が加わります。例えば放送局が提供する番組表アプリからVODで該当する番組を再生できるようになりますから、見逃し配信サービスなどは便利になります。また放送外マネージドアプリとは、放送にひも付けられないアプリのこと。放送局以外のサードパーティーが参画でき、チャンネルをまたいでサービスを継続できます。さらにHybridcast受信機や携帯端末にネットワークを使ってさまざまな情報をプッシュ型配信する仕組みにより、リアルタイム制の高い多彩な情報を視聴者に提供できるようになります。

 個人的にひかれたのはもう少し先の話。8Kスーパーハイビジョン対応のHybridcastでした。昨年も8Kパネルの高精細さを活かした展示はありましたが、今年は一歩進めていました。例えば85V型の8Kテレビを用い、50インチくらいのエリアでリアルタイルの放送を映し、その周囲には関連情報を表示できます。女子ゴルフのコンテンツでは、選手のプロフィールや、別カメラが撮影した映像を通信で取得して表示するといった応用を見せていましたが、やはり細かい文字も鮮明に表示できるところは大きなメリットです。

8K対応のHybridcast

 もう1つ驚いたのは、情報ウインドウでもBT.2020(4K/8Kの国際標準規格。広色域も含まれる)で広がった色域を使っていたことです。画面内のウインドウで、いかに印象的な赤を見せるかというチャレンジです。スーパーハイビジョンののトータルなパワーを使ってHybridcastも面白くなりそうです。

次世代の“放送と通信の融合”「MMT伝送技術」でハイレゾ音声化?

麻倉氏: 放送と通信の融合という点で、Hybridcastと並んで見逃せない展示が「MMT伝送技術」です。MMTは、MPEG Media Transportの略。放送と通信という異なる伝送路で受信した情報を、ディスプレイ上で同期させ、表示するためのメディアトランスポート方式です。

「MMT伝送技術」の概要

 仕組みはHybridcastですが、MMTではブラウザを必要としません。例えば、Hybridcastのタブレット連携サービスではテレビとタブレットという2画面を使えますが、MMT技術はコンテンツを表示するデバイスやその画面内の位置までを“トランスポートレイヤー”(映像や音声の同期、多重の機能を提供)で指定できます。またレスポンスが早く、非常にスムーズに放送と通信が連携できる特徴もあります。

 個人的に注目しているのは、MMTを活用した音声伝送です。日本の次世代放送となる4K/8Kは、既存の音声フォーマットを基本にしながら、これまでのAACに加えロスレス圧縮が使えるようになりました。総務省で次世代フォーマットを決めるにあたり、紛糾したのは音声のパラメータの部分。映像がハイレゾなのだから、音声もハイレゾにしてほしいという要望も多かったのですが、放送としては48KHzでいくことになりました。しかし“抜け穴”があって、MMTの通信でハイレゾの差分データを送れば、96kHz/24bitなどの高品位音声を活用できる可能性が出てきたのです。

 ニュースやワイドショーにはハイレゾは必要ないと思いますが、音楽番組などはやはり良い音で聴きたいものです。MMT伝送技術は、運用次第で面白い世界が作れるのではないでしょうか。

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