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4K/8Kの先にある放送技術――NHK技研公開麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/4 ページ)

» 2014年06月05日 23時24分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

「光電変換膜積層型固体撮像デバイス」が実現する次世代8Kカメラ

麻倉氏: 「光電変換膜積層型固体撮像デバイス」は、高感度の8Kカメラ実現を目指して開発中の次世代撮像素子です。大きな特徴が2つあり、まず光が入ってくる方向に光電変換膜を設け、画素電極や金属配線に光をじゃまされないこと。裏面照射に近い構造で、入ってきた光を最大限に活用できます。光開口率は100%です。流行の裏面照射より効率は高いと思われます。

「光電変換膜積層型固体撮像デバイス」と概要

 もう1つ、「結晶セレン」という低い電圧で動作する材料を光電変換膜に用いたことです。以前、HARP(High-gain Avalanche Rushing amorphous Photoconductor)の超高感度カメラで“アモルファスセレン”の膜を使用していましたが、結晶化させることで薄く、電力消費も低い光電変換膜が実現できたそうです。結晶セレンは入ってきた光をすべて吸収し、90%以上の高い量子効率が期待できます。さらに薄膜化により結晶セレンの粒の大きさを1画素よりも小さくしたことで、撮影画像のざらつきも大幅に低減しました。

撮影装置と被写体。ディスプレイにモノクロで映っているのが実際に撮影している映像だ。カラーフィルターはまだ搭載していなかった

 こうしたブレークスルーがあり、より小さいサイズで多画素化が可能、しかも省エネの撮像素子ができました。今回の技研公開では1億3300万画素の単板8K撮像素子も注目を集めましたが、それは感度が課題です。結晶セレンはその問題を解決する可能性があります。技研はこの撮像デバイスをパナソニックと一緒に開発していますが、今回の展示は材質や構造など、デバイスメーカーにも広く参加してほしいという目論見があるのではないでしょうか。

リアルタイム時空間解像度変換装置

麻倉氏: 「リアルタイム時空間解像度変換装置」も面白かったです。時空間、つまりフレームレート(時間解像度)と画素数(空間解像度)の両方にアプローチする超高圧縮率の映像符号化システムです。これまでの圧縮技術は空間解像度にだけ作用していましたが、これは時間軸の圧縮も行うため大胆に小さくできます。

「リアルタイム時空間解像度変換装置」で復元した4K/120p映像(左)。2K(フルHD/60pに落として伝送中(右)

 超解像技術とフレーム内挿技術(中間フレーム生成)を組み合わせた“時空間ハイブリッド復元技術”がキモです。例えば今後、4K/120pといった高画質データが出てきたとき、伝送容量は20Gbps前後と非常に大きくなります。それを一度2K/60pに落とし、圧縮符号化することによりブロック状のひずみを抑えつつ伝送します。複合後に時空間ハイブリッド復元技術をかけてもとの4K/120pに戻しますが、その際に送信側で得られたパラメータ(補助情報)を一緒に伝送することで、受信側のアップコンバート処理を効果的に行います。これはMasterd in 4KやMGVCのBlu-ray Discに似た手法ですね。

 過去の圧縮映像技術を顧みると、MPEG-2、MPEG-4 AVC(H.264)、HEVC(H,265)は約10年ごとに新しくなっています。今回の技術は“H.266”に提案するような長期的な視点で開発が進められているもの。おそらく“H.266”は、2018年頃に検討が始まり、規格化は2022〜2023年頃になるのではないでしょうか。そうすると、8Kよりも先――さらに未来の放送に使われるかもしれませんね。

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