小さいものが好き、オーディオ機器に限らずコンパクトで凝縮感のあるものにひかれてしまうことをぼくはこのページの中でお伝えしてきた。腕時計も大好きだが最近では工具や鋏にも興味が湧く。切れ味に優れた山形にある飛匠が作る園芸ばさみをオーダーしたら3か月待ちだという。ハンドクラフトなので量産が効かないのがその理由だが、違いの分かる人はどの世界にもいるんですね。そんなわけでぼくも首を長くして待つことになった。
以前に取り上げたフォステクスの「GX-100Limited」やオラソニックの「NANOCOMPO」は3か月待ちということはないが、凝縮のモデルにはそんな魅力が潜んでいる。今回紹介するtangent(タンジェント)の「SPECTRUM X5」というスピーカーもそんな製品の1つだ。
タンジェントは1995年に英国で生まれたスピーカーとアンプを手掛けるオーディオ・メーカーである。1998年にデンマークのエルタックスとの協業を機に拠点を移すが、2014年に入り仏AVインダストリーの傘下に入ったことで、パリ郊外に転出した。オーディオ業界は洋の東西を問わず再編が進行しているため、こうした買収劇を目の当たりにすることが少なくないし、こうした動きに不安を感じる読者もおありのことと思うが、発展的な解消という意味でこのM&Aは彼らにとってもプラスになったはずである。
そして「SPECTRUM X5」はその進化を証明する一台になった。温もりをじさせるウォルナットのベースに黒のマット塗装を施したシンプルなエンクロージャー…その外観から想像するまでもなく基本設計はデンマーク時代に行われたものである。今後の展開についてもおそらくこのシリーズでは同様のテイストを保った形で製品化がなされることだろう。タンジェントは前作の「EVOシリーズ」にもみられるように、元来コンパクトなスピーカーを得意としてきたが、「SPECTRUM X5」はそうしたモノづくりを継承するとともに音質の練り上げが素晴らしいことにぼくは感心したのである。
このモデルは、12.5センチ口径のウーファーと2.5センチ口径のツィーターで構成された2Wayのスピーカーである。ウーファーの振動板には素材として安定しているペーパーに剛性を高めるための表面加工を施し、ツィーターにはソフトドームの振動板を用いて2Wayスピーカーならではの一体感に富んだ表現力を身に着けている。ユニットやネットワークに関してのデータは公開されていないので細かいスペックは分からないが、クロスオーバー周波数は2500Hz、能率は90dB、入力インピーダンスは6オームという仕様だ。
またエンクロージャーの背面にポートを設けたバスレフ方式を採用し、低域の再現能力を高めているほか、シングルポストの入力端子を採用することでコストを抑えたモノづくりがなされている。ツィーターとウーファーには共にパンチングメタルのガードを宛がいユニットの保護をおこなっている。輸入元のポーカロラインの説明によると、このガードにより音の拡散性が改善されているということだが、役割はやはりユニットの保護が主たる目的なので取り外すことはできない。
試聴は価格的に釣り合いとのとれたCDプレーヤーとアンプで行った。CDプレーヤーにヤマハの「CD-N301」、プリメインアンプに同じくヤマハの「A-S501」を組み合わせている。
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