――これまでビジュアル関係の話が続きましたが、オーディオ分野はどう感じましたか?
麻倉氏:今年のオーディオは、市場が右肩上がり、とくにヘッドフォンや携帯端末、デスクトップオーディオなどが活況を呈しているのを受けて「パーソナルレベル」が増えたように感じました。オーディオマニア向けのハイエンドモデルは、春にミュンヘンで開かれる「High End」ショーに集まります。対してIFAは一般レベルの製品がメインです。
――「ン百万円レベルは南ドイツへどうぞ」というところでしょうか
麻倉氏:今年のIFAでは、スマホに入っているソースを無線転送するのが大きなトレンドです。面白かったのが、ヤマハが本格的にワイヤレスミュージックへ参入するというものです。ブースの8割を使って「MusicCast」という独自のシステムを宣伝していました。
このMusicCastというブランド、実は2003年に先鞭を打っていたのですが、当時はまだ技術が追いついていないのとあまりに先進的すぎるというので、残念ながらすぐにやめてしまったそうです。その後このジャンルが他社から盛り上がりを見せてきて、ヤマハでも改めて参入しようという流れになりました。
――先進的すぎるコンセプトに技術が追いつかず撤退というのは、何だかどこかで見た構図ですね……
麻倉氏:ヤマハはハイエンドからエントリーまでをそろえる、音楽の総合デパートです。それらを全てMusicCast化します。かなり広範囲のユーザー層を想定しているため、アプリ開発にも力を入れています。ただでさえ難しい無線再生をできるだけストレスなく設計して、ヤマハ独自の高音質世界を拓こうとしているのです。ハイエンドにも耐えうるものですので、ハイレゾ転送も可能にしました。こういった無線システムは一時サムスンがやっていたのですが、最近では撤退気味で、ソニーの「SongPal」もイマイチ元気がありません。専門メーカーとしてやるという切り口に注目したいですね。
専門メーカーの切り口という話では、別の例でサウンドバーが挙げられます。テレビの音質を手軽に強化できるサウンドバーですが、オーディオメーカーのものとテレビメーカーのものでは音の質が全く違います。特にヤマハの作っているビーム方式(デジタルサウンドプロジェクター)のものは、音だけでなく定位感も良いですね。オーディオ専門メーカーがきちっと取り組むということが、いろんなジャンルにおいて音を良くする起爆剤になるのではないでしょうか。PCMの192kHz/24bitが再生できるというのはやはり大きな注目点です。無線を通じたハイレゾがこれから流行る、その先駆けになるでしょう。
――ビーム方式スピーカーは今回のヤマハブースの中で一番人気でしたね。なかなか試聴ブースに入れないほどの盛況ぶりでした
麻倉氏:ビームスピーカーの展示はとても面白かったですね。あれはDolby Atmosに対応しているという点が注目ポイントです。Atmosは立体音響ソリューションとしては非常に面白いですが、インストールに難ありです。AVアンプの仕込みや天井スピーカー設置が特に難しく、どうしても敷居が高くなってしまいます。Dolbyでは天井に向けて音を反射させる「イネーブルドスピーカー」を提唱しているのですが、これでは音が散ってしまい、音像がぼやけてしまいます。一般人に対して最も的確なパフォーマンスが得られて、なおかつ設置が簡単という事を考えると、現状ではヤマハのビームスピーカーが望ましいと考えます。試聴室で聞いてみると的確な方向性と包囲感が得られました。
このビームスピーカー技術はスーパーハイビジョンの22.2chで活きてきます。スーパーハイビジョンのフォーマット環境をちゃんと構築しようと思うと、サブウーファーを合わせて24個もスピーカーを置かないといけません。
――一般人には5.1chでも敷居が高いのに、24個ものスピーカーを部屋中に設置するというのはあまりに非現実的ですよね
麻倉氏:今回のビームスピーカーデモは7.1.2という構成です。スーパーハイビジョンでは3レイヤーに分かれていますが、どうやらそれも上手く出来そうな感じです。22.2chをきちんと出来る唯一の方式ではないかと、私は注目しています。
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