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大切なのは技術より“使う人にとっての価値”――開発担当者に聞く「ルンバ980」滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(1/3 ページ)

» 2015年10月09日 20時50分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

 国内でも10月10日に発売される米iRobotの「ルンバ980」。これまでのルンバと同じようなフォルムだが、中身はまったく別物となった。同社のコリン・アングルCEOが、「2002年にデビューした最初のルンバ以来、最高の出来」という自信作について、開発担当のケン・バゼドーラ氏に詳しく聞いた。

「ルンバ980」

書いたプログラムは従来の100倍

新製品発表のために来日した米iRobotのケン・バゼドーラ氏

 「ルンバ980」が従来のルンバと最も違う部分が、頭脳である「iAdapt 2.0 with Visual Localization」を搭載した点だ。これは主にBtoB製品向けに開発されたモバイルロボットプラットフォーム「Ava」(エイバ)の技術を、家庭用の「ルンバ980」に技術転用したものである。とはいえ、ただ、転用するといっても、そこにはいろいろ苦労があった。

 「シスコシステムズと共同で開発したロボット型テレビ会議プラットフォーム『Ava 500』がレーザーを使って状況を把握するのに対し、『ルンバ980』はローコストなカメラを使いました。BtoC用、つまりコストをあまりかけられないためです。このカメラもスマートフォンのカメラなどよりも性能が低いもの。しかし、この技術を開発するのに基礎研究から合わせて10年以上の時間がかかりました」

 さらに苦労したのが、すべてのエコシステム――つまりシステム全体をスームズに動かすための接続だ。「『ルンバ980』はクラウドとアプリケーション、それに本体と接続するため、ソフトウェアの量も数も質も違います。従来のルンバと比べて、100倍ほどのプログラムコードを書きました。そららがしっかりと動作するか、そういったテストの数も段違いで、ようやく製品化にいたっています」

 もっとも気になるところが、従来のルンバとはまったく違い、マッピング技術を駆使して、直線的かつ効率的に動くところだ。この仕組みについてあらため聞いてみた。

従来のルンバとはまったく違い、直線的かつ効率的に動く「ルンバ980」

 「vSLAM(Visual Simultaneous Localization And Mapping)の技術を導入し、本体上部のカメラで特徴的なランドマークをみつけながら室内の形状を把握していき、『フロアトラッキングセンサー』を組み合わせることで、常に自機の位置を把握しています。フロアトラッキングセンサーでは、車輪の直径などを考慮しながら移動距離を計測します。また『ルンバ980』は30度上方の角度を見上げる形で部屋を見ていますが、いわゆる人間の見え方とは違って光や明暗のパターンで、室内各所のランドマークを認識しているのです」。

 口にするのは簡単だが、「ルンバ980」が掃除する工程を解説してもらうと、実際はソフトウェアでかなり複雑なことが行われていると分かる。

 「ルンバ980がマップを作りながら移動していると、センサーが障害物や段差などを検知します。そこでは従来のルンバ同様、経験則に基づいたアルゴリズムで最適な動きをします。一段落すると通常の動きに戻り、それを繰り返すことでマップはどんどん広がっていきます。ある時点で、“ここの部屋はもう全部掃除した場所だ”と『ルンバ980』自身が判断すると、次の部屋へと向かい、また同じように地図を作りながら掃除を進めます。最終的に家全体、もう“行くところがない”とマップがクローズするまでこの動きは続きます」

途中でバッテリーがなくなると最短のルートでホームベースに戻る

 掃除するフロアが広い場合、途中でバッテリーがなくなるケースもある。すると「ルンバ980」は従来機と同様、自動的にホームベースに戻って充電を行う。異なるのは、ホームベースに帰るときの動きだ。「すでにホームベースまでのエリアの地図はできているので、もっとも最短のルートでルンバは戻ります。そのルートは本当に緻密(ちみつ)ですよ。そこで自身で充電し、完了したら再度、掃除を途中でやめた場所まで戻り、掃除をリスタートするのです」

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