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» 2015年12月02日 16時19分 公開

麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」:8Kは立体テレビ!? 解像度と立体感の蜜月関係 (3/3)

[天野透,ITmedia]
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麻倉氏:平面映像から立体感を感じる時に何が起こっているかを生体反応の面から解明するために、NHKではMRIを使って脳内の血流量を測定しています。鏡を使って寝ながら実験画像を観てもらうことで「運動の知覚や両眼視差による立体視に関連した部位である“MT+”なる部分の血流量が活性化した」そうですよ。

 この結論は、誰もが「そうなんだよな」と納得するものですが、本当に面白いのはここからなんです。実は、2)の解像感については、被験者は特段に違いを感じていないということなのです。つまりロー、ミドル、ハイのすべてのコントラストにおいて、ディスプレイ上の表示解像度が異なっても、「感じられる解像感」は一定なのです。そのわけは、前述したように離れたところから(画素構造が目で認識できないぐらい)モニターしているからなのですが。

――なるほど

麻倉氏:そしてさらに、解像感については被験者は特段に違いを感じていなくても、表示解像度が高くなると、明らかに立体感が増すというのです。面白いですねえ。つまり、立体感の認識には、なにより表示解像度が高いことが大切ということですね。

「運動の知覚や両眼視差による立体視に関連した部位である『MT+』なる部分」の解説。健康バラエティ番組の解説のノリに通じるが、平面映像に立体感を感じる証拠である

――表示解像度を上げても離れて見ているなら解像感は感じない、でも立体感は感じるということですか。つまり主観的な解像感の認識を超えた領域でも、立体感に影響を及ぼすという実験結果ですね。これは確かに、非常に興味深い実験結果です

麻倉氏:なぜ解像感を直接には感じなくとも、表示解像度が高いと立体感を感じるかという理屈については今後の研究成果を待つことになりますが、もともと立体感を感じる要素として、コントラスト+階調+輪郭がいわれていました。それらが高解像度化によって絡み合い、より総合的に立体感を増加させる方向により効くのではないかと想像できますね

――確かに、これも感覚的に分かります

麻倉氏:実は、この結果は8Kの進展にとって実に重大な意味を含んでいます。8Kでは、その高解像度を享受するために、とても巨大なディスプレイを近距離(フォーマットとしては0.75H)で見ることが推奨されていますね。しかし現実には、家庭でのテレビの置き場所と見場所の位置関係は、新しいテレビが入ったといっても簡単には変えられませんよね。現在日本の家庭での平均視距離は2〜2.5メートルとされていますが、この位置からの8K視聴となると、0.75Hを考慮した場合は100インチに近いとてつもなく大きなディスプレイが必要となるんです。

――ブラウン管テレビがフルHD液晶テレビに変わった際のサイズアップは10インチからせいぜい20インチですから、40インチやら50インチやらの今のテレビが100インチに代わるのは、流石に厳しいですね。

麻倉氏:夏のIHSディスプレイサーチの講演会では、「一般視聴者にとって8Kテレビでの画面サイズは識別困難な限界に近づいている」とし、「家庭での2〜2.5メートルの視聴距離を考慮すると、65型が8K画質の差異を認識できる最低限ぎりぎり」であり、「8Kでの最適サイズは85型」との調査報告が発表されました。

 この認識でいうなら、8Kは大型でないと真価を発揮しませんが、現実問題として、それほど大きなテレビが一般家庭に入ることは簡単には想定できないですね。だから、8Kの普及には限界があるという理屈になります。小さな8Kテレビなら、家庭に容易に置けますが、それでは、「8Kらしさ」が発揮されないので、この点からも普及は難しいという見立てです。

――そうなんですか、ガッカリ……

麻倉氏:しかし、私はこう思うのですね。今回の技研での研究結果は「たとえ『8Kならではの解像感が認識されず』とも、『高解像表示であれば、立体感、奥行き感』が感じられる、ということの立証だ」と。それならば、2〜2.5メートルぐらいの視距離で、60型ぐらいの小さな8Kテレビで、たとえ8K的な精細感はあまり感じなくとも、立体感、奥行き感は豊潤に感じられるのであれば、それは実に意義深いことではないでしょうか。

 これを裏付けるかのように、世界的にも、次世代テレビの価値は高解像度だけではないという考えが主流になりつつあります。

――解像度の価値に対する従来の考え方を大きく揺さぶる研究結果ですね。この実験結果は8Kの価値を強力に補強すると思います。しかし、ハイレゾもそうですが、人間の感覚というのはつくづく不思議なものだと思い知らされますね

麻倉氏:昨年4月に訪れたフランスはカンヌの「miptv」で、「I reserve better pixels not just more pixels」と題する講演を行った、BBCのHD&UHD技術部長、Andy Quested氏は、今後の画質の重要な要素として優先順に、1)ダイナミックレンジ、2)色再現性、3)より良いオーディオ、4)適切なフレームレート、5)解像力の5つを挙げました。「解像力」をあえて最後にしたことが、とても示唆的です。なぜ解像度は重要でないかと質問したら、「離れてみたら、解像度の高さなど分からなくなるからです」と、素晴らしくも明晰なお答えでした。そもそも講演タイトルは「4Kは単に画素を増やすのでなく、より良い画素(映像)にすべき」と訳すことができます。つまり4Kや8Kは「単に画素を増やしただけのフォーマットではない」とハッキリと言ったのです。

2014年の「miptv」で行われたBBCの講演

――ここ最近、このコーナーで映像技術を取り上げてきた際の着眼点とも合致しますね。4Kや8K、HDRなどを語る時も、一貫して「どこか1点ではなく、総合的な映像のレベルが向上することが大切だ」と主張してきました

麻倉氏:確かに、8Kについてのイメージは、以前は「究極の高解像度放送」でしたが、ITU-R勧告の「BT.2020」登場以後は「総合画質」が何よりも重要になってきています。色域の拡大、ハイフレームレート、そして(BT.2020ではありませんが)ハイダイナミックレンジが高解像度と相携えることで、前代未聞の高品位な映像が実現できる可能性が高いのです。今回の調査で分かるように、明らかにハイコントラストでは立体感を強く感じるわけで、ハイ・ダイナミックレンジは奥行き感、立体感の涵養に重要な役割を果たすでしょう。その意味で今回の研究は、8Kの普及にとって非常に重要な示唆を与えるものです。

 いずれにしても、遠からず8K時代はやってきます。今から、心構えをしっかりとし、準備しておきましょう。

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