ITmedia NEWS >

ミーレのチーフデザイナーが考える新しいキッチンのカタチ滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(2/4 ページ)

» 2016年01月29日 06時00分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

コイネケ氏:例えば料理が得意な方やプロの料理人などは、「何をどう作るか」ははっきりと理解しているので、マニュアル的な火力の調節を好みます。一方、料理があまり得意でない方はサポートが必要ですから、タッチスクリーンで多くの情報を提案する形が好まれます。そのどちらにも楽しんで使ってもらえるようにデザインしたのが「Mタッチ」なのです。

タッチスクリーンを利用した「Mタッチ」

――「Mタッチ」は日本人が使っても楽しめますか?

コイネケ氏:そうですね。ただ、日本の方と話していて気づいたことですが、現在、オーブンの「Mタッチ」で操作できる調理プログラムは、どちらかというと欧州の料理の素材や調理法がたくさん入っています。日本ではガスレンジを使って作業する料理が多いのに対し、欧州ではオーブンを使うことが主流。そんな違いがあると実感しています。今後は、その国に合わせて調理プログラムも変えていきます。日本向けにもそのあたりをアップデートしていくことが重要だと考えています。

 またインタフェース自体も、これが完成ではありません。随時より使いやすいものにデザインしていかないといけないと考えています。もしかすると国ごとに変えるかもしれません。

――ローカライズというのは、ある意味、各国のやり方に迎合するという意味で、間違うとそのブランドらしさみたいなものを薄めてしまうものにもなりかねないと思っているのですが、ミーレではローカライズをどのように意識されているのでしょうか?

コイネケ氏:“ミーレらしさ”をしっかりと表現しながら、使い勝手や各国の違いなどを盛り込めると考えています。ローカライズは、なにもその国にすべてを合わせるわけではありません。例えば、アメリカ向けの製品の場合、表記部分にシンボルマークを多用することが非常に嫌われます。そういった機能を全部言葉で記載していないと嫌なようで、パネル部分はすべて文字表記に変えています。それでも根本の機能などは“ミーレそのもの”です。

――インタフェースのデザインというのは、ある意味デザイナーにとっても新しい分野だと思われますが、まだまだ進化の余地があると思いますか?

コイネケ氏:もちろんそう思いますし、今後、成長する可能性が大きい分野であると確信しています。しかも物理的な制約がない分、多くの人の要望に応えようとすればするほど、デザインは大変になります。さまざまなサービスとリンクさせたり、われわれの持つ多くのレシピをどうやって入れ込むと使いやすいのかなど、本当にデザインの余地が広がっていると思います。

――ビルトイン機器の場合、表面積も限られてますし、ボタンの数も限られてくると思いますが、タッチパネル上のインタフェースであれば、ある意味無限ですよね

コイネケ氏:そこで重要なのが、「Design for life」だと考えています。つまり、人の暮らしを豊かにデザインするために、ミーレが取り入れるサービスはどういうものか。そういった取捨選択をデザインの視点から研究し続けています。

――そのあたりは「IFA 2015」などで披露していたIoT化されたオーブンなどに顕著に表れていると思いました

コイネケ氏:「miele@mobile」ですね。例えば食洗機が洗い終わったことをスマートフォンにメッセージで教えてくれたり、洗濯機が洗濯の終了をお知らせしてくれたり。さらにはあと何分かかるかをスマホ経由で知ることができるといったものなど、アイデアレベルでは無数にあります。そこで「Design for life」するうえで、何が必要なのかを絞り込む必要があります。

――最終的に生活を豊かにするものが採用されると

コイネケ氏:その通りです。

ブラウンとの違い

――ところで「タイムレス」という言葉について教えてください。同じドイツのブラウンもデザインの世界では「タイムレス」や「機能主義」という言葉を使いますが、ミーレは同じタイムレスでも少し違う気がします

コイネケ氏:ブラウンはかつてのチーフデザイナーであるディーター・ラムス氏がデザインをリードしてきて、世界中の家電メーカーに大きな影響を与えたブランドです。ただ、ミーレのデザインとは明らかに違いますね。

 まず、ブラウンと共通しているところから考えてみると、ベースの形状が幾何学的であるということです。例えば、丸や四角など、非常にクリアでミニマルなデザインであることが共通してます。あと、変わらないアイコンなどもそれを感じさせる重要な要素でしょう。例えば目を閉じると、ミーレの製品は縦横のピュアラインがイメージされ、こういう線ですべてが構成されているなということがすぐイメージできるように、ブラウンも計算機などを思い出してもらえれば、あの丸ボタンがすぐに思い浮かびますよね。それぞれが持っているアイコニックな表情は違いますが、そういったデザインアプローチは似ていると思います。ただ、ブラウンは小物家電に注力しているのに対し、ミーレはもう少し大きな家電を扱っているところなどに違いを感じています。

――ビルトイン家電や掃除機にもいえることですか?

コイネケ氏:掃除機のほうは現在少し苦戦していますね。デザイン面でも。例えば、最近はDyson(ダイソン)のようなブランドが出てきて、デザイン面でも機能を強く主張するメカニカルな方向でブームを巻き起こしています。ですが、われわれには歴史があり、いわゆるミーレらしさというブランド価値をきちんと打ち出す使命があるので、そちらに振ること自体がミーレのユーザーにとって「Design for life」であるとはいえません。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.